昨年、東京・四谷の「後楽寿司やす秀(みつ)」さんで、夏の貝の王様「あわび」の握りをいただいたとき、その香りの豊かさにびっくりしました。歯応えばかりのあわびからは想像もつかない美味しさで、あわびと酢めしが渾然一体となって消えてゆきました。
今年は「あじ」です。「あじ」もまた夏が旬の魚ですが、なかなか美味しい「あじ」に巡り合えません。なぜなら、仕込みが不十分で「あじ」の臭みを残している握りがほとんどだからです。
「やす秀(みつ)」のあじの握りは、下処理が完璧で、匂いがまったくありません。甘く溶けて、酢めしとなじんで、美味いの、なんの! 酢めしも1年で随分と変わりました。酢は心地よく感じられる酢めしに変貌しています。
先日、フランス・ブルターニュのブレストですし屋を営むグザヴィエ・パンセックさんをお連れしました。彼の握りも立派で、ブルターニュの海で獲れたあじやラングスティーヌの握りは忘れられません。
「やす秀(みつ)」のご主人、綿貫安秀さんとグザヴィエ・パンセックさんは、共にすし職人でありながら、サーファーでもあります。すぐに気が合い、なんと来年、この「後楽寿司やす秀」でコラボで鮨を握ることになりました。いまから、とても楽しみです。
【後楽寿司やす秀(みつ)】
住所/ 新宿区三栄町7-4
TEL/03-3351-3440
営業時間/17:00~23:00(L.O.22:30)
定休日/日曜・祝日
http://www.kouraku-sushi.jp/
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。