文/濱田浩一郎

武将・明智光秀の真の姿とは?
大河ドラマ『豊臣兄弟!』において織田信長に仕える明智光秀を演じるのは要潤さんです。大河ドラマではこれまで様々な名優が光秀を演じてきました。例えば1973年放送の『国盗り物語』では近藤正臣さん。1996年放送の『秀吉』では村上弘明さん。2020年放送の『麒麟がくる』では、ついに光秀が大河ドラマの主役になり、長谷川博己さんが主演でした。ドラマで描かれる光秀にはある一定のパターンがあるように感じます。清廉で生真面目。「暴君」信長に諫言するも容れられず、時に信長から暴力を振るわれるといったものです。しかし、それは本当の光秀像なのでしょうか。
戦国時代に来日し、信長や豊臣秀吉とも会見したポルトガル人宣教師ルイス・フロイスはその著書『日本史』の中で、光秀のことを「その才知、深慮、狡猾さにより信長の寵愛を受けた」「裏切りや密会を好む」「刑を科するに残酷」「絶えず信長に贈与することを怠らず、その親愛を得るためには、彼を喜ばせることは万事につけて調べているほどであり」などと記述しています。かなりの計算高さや野心でもって、織田家の中で出世していったことが窺えます。
光秀の野心について興味深い逸話を載せる書物があります。それが『武者物語』です。同書はその名の通り、武将にまつわる逸話集であり、江戸時代初期の承応3年(1654)に成立し、明暦2年(1656)に刊行されました。編者は松田一楽入道秀任という人物ですが、経歴は不明です。ただ同書の内容からかなりの身分と学識を有していたのではないかと推定されています。ちなみに同書は各逸話が「古き侍の物語に曰く」という書き出しでスタートするのですが、では光秀に関してはどのような逸話が収録されているのでしょうか。昔話を聞くような感覚でご覧頂ければと思います。
光秀はなぜ大黒天像を捨てたのか?
「昔の侍の物語に言う」―明智日向守(光秀)殿がまだ身分が低い侍であった頃のお話です。ある時、光秀は越前国の東江川を渡ったが、その際に大黒の像を拾うのでした。日本においては大黒は七福神の1つ。光秀は大黒像を拾ったことを喜び、家に持ち帰り、棚に飾って朝夕、これを拝したのでした。ある人が光秀が大黒像を取得したことを聞きつけ、光秀に言います。「まことにめでたい福の神をお迎えになったものです。この大黒天は千人の上に立つ神でありますぞ。よくよく信心されますように」と。光秀はその言葉を聞き、喜ぶかと思えばさにあらず。驚いて「さてこの大黒殿は僅か千人の主人であったのか」と述べるのです。更には「了簡の狭い大黒殿よ。福の神ならずとも、世の凡夫(凡人)でも千人の上に立つ者などいくらでもいる。これは出世を願う侍が信心すべき神ではない」と大黒を非難。大黒を捨ててしまったと言うのです。
『武者物語』には全体的に「教訓臭」があると評されますが、この逸話の教訓とは一体、何でしょうか。それは大志や野望は大きくということではないでしょうか。小さい野心をくすぶらせるのではなく、どうせならば大きな野心を持って行動していけということをこの逸話は伝えたいのではないでしょうか。もちろんこの逸話は実際にあったこと、というよりは創作でしょうが、光秀の人物像としてはフロイス『日本史』が記述する光秀に近いものがあります。
光秀というとドラマなどでは信長とは対照的に信心深く描かれることがありますが、この逸話においては自らの野心達成のためには大黒像を弊履のように捨てています。光秀というと比叡山延暦寺の焼き討ち(1571年)の際に信長を諌めてこれを止めようとしたとの逸話で有名です。
ドラマなどではそのため、信長が怒り光秀に暴行を加えるといったシーンが描かれてきましたが、実は近年においては光秀は叡山焼き打ちの忠実な実行者だったとの説が有力になってきています。光秀が近江の国衆・和田秀純に送った書状のなかに「仰木(仰木谷)のことは是非とも、なでぎり(皆殺し)に仕るべく候」とあることなどがその理由です。光秀は比叡山焼き討ち後に信長から近江国滋賀郡を与えられていますが、それも叡山焼き討ちで武功があったからこそでしょう。大河ドラマ「豊臣兄弟!」においては光秀は豊臣兄弟(秀吉・秀長)のライバルとして登場してくると思われますが、光秀がどのような人物として描かれていくのか楽しみです。
【主要参考文献一覧】
・吉田豊訳『雑兵物語 雑兵のための戦国戦陣心得』(教育社、1980年)
・大曽根章介他編集『研究資料日本古典文学 第4巻』(明治書院、1983年)
文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。











