文/鈴木拓也
周知のとおり、年を重ねると多くの人が「足腰の痛み」に悩まされるようになる。ここで言う「足」は、実際には変形性膝関節症といった、「脚」のトラブルをもっぱら指してきた。そして、本来の「足」を意味する、くるぶしから下の部分については、あまり関心が持たれてこなかった。
それに対し、超高齢化社会においては「足」そして「靴」にも注意すべきと唱えるのは、ノンフィクション作家の「かじやますみこ」さんだ。
かじやまさんが、足と靴に関心を持ったのは、車にはねられ1年におよぶ治療とリハビリをしていた最中のこと。事故とは関係ない足首に痛みを感じ、理学療法士に相談したところ、市販のインソールを勧められる。それを靴に敷いて歩いたところ、痛みから解放されたという。
その体験から、靴が足の健康に及ぼす影響に関心を持ち、専門家を訪ね歩いて知識を深めた。そうして得た知見をまとめたのが、新書『健康長寿は靴で決まる』だ。
本書でかじやまさんは、「人生100年時代を元気に乗り切る」には、靴選びに慎重になるべきだと述べる。そして、多くの日本人が、そうとは意識せず自分に合っていない靴を履いており、足の問題を抱えている点を指摘。特にシニア年代は、土踏まずの「アーチ」にくずれやゆがみが生じ易く、まわりまわってロコモティブシンドロームの遠因になりうるとも。特に、「やってはいけない」靴の履き方として、以下を挙げている。
・紐靴の紐をほどかずに、そのまま足を入れる。
・スポッとかかとが抜ける靴を、「ま、いいか」と思って履いてしまう。
・靴ベラを使わず、かかとを踏みつぶすようにして革靴を履く。
・「今日はいつもより歩くから、ラクな靴にしよう」と大きめの靴を履いて出かける。
いずれも、日本人が好む、歩きやすいスタイルに思われる。しかし、足の安定性をサポート(ホールド)するという靴の機能が発揮されず、トラブルを招く履き方だという。
では、具体的にどうすれば正しい靴選びができるのだろうか?
以下、本書からかいつまんで紹介しよう。
■ヒールカウンターがしっかりしている
かかとの部分を支える芯材であるヒールカウンターは、ある程度の硬さが必要。それにより足首が安定するという。
靴擦れを心配してヒールカウンターが柔らかい靴を選びたくなるが、「かかとの柔らかい靴にいい靴はありません」という。サイズが合っていれば靴擦れは回避できるので、靴店ではヒールカウンターの硬さをチェックしておこう。
■足指のつけ根でソールが曲がる
歩行の際に、足指が曲がる位置、つまりつけ根でソールが曲がる靴を選ぶ。とりわけ、女性用の厚底靴には、歩行時にソールが全く曲がらないものがあるが、これは選んではいけない靴。
また、足指の曲がる位置とソールの曲がる位置がずれているのも、自分には合っていない靴なので、これも避ける。
■紐やベルトで靴を固定できる
筋力の衰えを感じる世代が留意したいのは、脱ぎ履きが楽なスリッポンなどより、「靴紐など甲の部分を包み込んで固定できる」靴を選ぶこと。そして、1日に数回締めなおす。これで足がしっかりと安定したものとなる。
■試し履きは慎重に
靴店では、目に留まった2~3点の靴の中から自分のサイズの在庫があるものを選んで、それを購入する人が多いだろう。しかし、ここはもっと慎重になるべきだと、かじやまさんは諭す。そもそも、サイズが同じ数値であっても、メーカーによって履いたときのサイズ感は「かなり違う」そうで、「あまりあてにならない」という。
じっくり時間をかけ、納得のゆくまで何足でも試し履きをするのが肝心で、「販売員の目は気にしない」。足のサイズは歩行の最中にも微妙に変わるので、売り場の中を歩き回り、つま先立ちするなどして、これはと思う一足を決めるようアドバイスする。
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靴選びの基準は上に掲げたものばかりでなく、詳細は本書を読んでいただければと思うが、かじやまさんは、「靴を整え、足の健康を保つことは、寝たきりを防ぎ、健康寿命を延ばすことに大いに役立ちます」と強調している。
「たかが靴」という考えを改め、新しい一足は、健康に良いものを選びたいものだ。
【今日の健康に良い1冊】
『健康長寿は靴で決まる』
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166611881
(かじやますみこ著、本体850円+税、文藝春秋社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。