取材・文/池田充枝
孤高の画家として知られる田中一村(たなか・いっそん、1908-1977)は、栃木に生まれ、幼少より南画(中国の南宗画に由来する絵画)を描き、昭和元年(1926)に東京美術学校に入学しました。しかし、学校は2か月で退学し、それ以降は特定の師につかず、独学で画家人生を歩み、千葉で20年間ひたすら写生に没頭します。
そして、新しい創作への道を模索するなかで、50歳で奄美大島へ渡り、亜熱帯の植物や鳥などを題材にした日本画を描き、独自の画業を追い求めていきますが、生前それらの作品を発表する間もなく、無名のままこの世を去りました。
一村に一躍脚光があたったのは、昭和59年(1984)のNHKテレビ「日曜美術館」で一村の作品が紹介されてより。「パンのため」の絵を描くことを良しとせず、「本道と信ずる絵」を追求し続けた一村芸術は人々の心を揺さぶります。
関西では10年ぶりとなる、田中一村の大規模な特別企画展が、滋賀県守山市の佐川美術館で開かれています(~2018年9月17日まで)。
本展は、生誕110年を迎える孤高の画家・田中一村の幼少期から青年期にかけての南画、南画との決別から新しい日本画への模索、奄美に移住してから、と各時代の代表作を含む約180点余の作品が展観され、一村芸術の真髄に迫ります。
本展の見どころを佐川美術館の学芸員、井上英明さんにうかがいました。
「今回佐川美術館の開館20周年の特別企画展として田中一村展を企画しました。
多くの人が持つ田中一村のイメージは、奄美大島へ渡り亜熱帯の植物や色鮮やかな鳥など、豊かな自然をモチーフに、斬新な構図や色彩で新たな日本画の境地を拓いた画家であると思います。しかし、それは彼の60年以上にわたる創作の歴史の一部にしか過ぎません。不遇の生涯と奄美作品ばかりが先行しがちですが、一村の創作の歩みを総体的に見てこそ、真の田中一村という人物が浮き彫りになり、彼の芸術性を再認識できるはずです。
そこで今回の展覧会では、幼少期から晩年に至るまでの彼の生涯を通して、様々な作風の作品180点以上を展示しています。また、普段見ることのできない個人所蔵の作品を数多く展示していますので、是非この機会に一村の作品の全貌をご覧いただければ幸いです。
会期中の8月19日(日)に、千葉市美術館学芸員の松尾知子さんによる記念講演会や、8月25日(土)と9月1日(土)に「奄美・島唄の夕べ」と題したトワイライトコンサートを開催します。コンサートのご出演は、奄美出身で全国的にも活躍している里アンナさん(8/25開催)と朝崎郁恵さん(9/1開催)です。詳しくは佐川美術館のホームページをご覧いただき、展覧会と共にお楽しみください」
一村芸術の決定版ともいえる展覧会です。真の一村に会いに、ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
開館20周年記念特別企画展
生誕110年 田中一村展
会期:7月14日(土)~9月17日(月・祝)
会場:佐川美術館
住所:滋賀県守山市水保町北川2891
電話番号:077・585・7800
http://www.sagawa-artmuseum.or.jp
開館時間:9時30分から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし7月16日、8月13日、9月17日は開館)、7月17日(火)
取材・文/池田充枝