文・写真/横山忠道(タイ在住ライター)

日本ではマッサマンカレーやパクチー料理など、毎年のように「タイ料理」のブームがやってくる。次に日本を席巻するメニューはなにか? その最右翼と提案したいのが北部タイ・チェンマイ名物「カオソーイ」だ。

カオソーイとは濃厚なカレースープをベースに、茹で麺と揚げ麺の2種類の食感が楽しめるユニークな麺料理だ。日本人の好みにもぴったりハマっていて、一度でもカオソーイを食せば「なぜこれが今まで日本で流行らなかったのか?」と驚くことだろう。

そんなカオソーイの魅力とおいしさの秘密を、本場タイ「チェンマイ」にあるオススメ店を巡りつつ紹介していこう。

カオソーイのメッカ、ファーハームで「カオソーイの王道」を体得する!

四方を堀と城壁に囲まれたチェンマイ旧市街から北東へ約1.5キロ、ピン川東岸を走るチャルンラート通り沿いに「ファーハーム」という町がある。そこにはカオソーイの有名店として双璧とされる二店が近接している。カオソーイとはどんな料理かを探るにはまずここに来ることがおすすめだ。カオソーイは店や地方によって素材や味付けに違いがある料理だが、この二店の味わいが「カオソーイの王道」といってもいいだろう。

ファーハームでは創業70年以上という老舗店「カオソーイ・ラムドゥアン」が外国人観光客に最も知られているが、本稿では地元民や定住者に人気の高い「カオソーイ・サムージャイ」の方を紹介したい。余裕があれば二店をハシゴして「食べ比べ」をしてもよいだろう。

この店のカオソーイは、鶏肉入り「カオソーイ・ガイ」、豚肉入り「カオソーイ・ムー」がそれぞれ40バーツ(132円)、牛肉入り「カオソーイ・ヌア」が50バーツ(165円)で、現地タイ人にとってもごく普通の庶民プライスだ。サイドメニューも豊富に用意されているが、店先で煙を立てている豚の串焼き「ムーサテ」(40バーツ/132円)がオススメだ。

カオソーイは、茹でた卵入り中華麺の上に「揚げ麺」がトッピングされているのがポイント。揚げ麺は最初のクリスピーな食感から徐々にスープを含んでしっとりしてきて、最後まで飽きがこない仕掛けになっている。この店のスープは濃厚なカレーの滋味に華やかなハーブやガピ(エビを塩漬けした発酵調味料)の風味が加わり、複雑かつ鮮烈な味覚となっているのが特徴だ。

タイの食堂の多くは往来に面した店先が厨房になっており、この店でもカオソーイの盛り付けをしているのを観察できる。カオソーイの基本を覚えたところで、こっそりスープの秘密を探ってみよう。

まず丼に持った麺の上に、香味あふれるカレースープ(左の大鍋)をかける。下ごしらえを終えた段階なのでレシピはもちろん窺い知れないが、香味野菜やスパイス・発酵調味料のブレンド具合がその店の差別化ポイントである。その上に注ぐのがマイルドなココナッツミルクベースのスープ(右)。なんとカオソーイは麺だけでなく、スープも二層構造となっているのだ。心地よい舌ざわりの上品な甘さの秘密はこのココナッツミルクにある。

地元民のイチ押し人気店カオソーイ・メーサイで「薬味を極める」!

もう一店外せないのがチェンマイ旧市街から700メートルほど北西の界隈にある「カオソーイ・メーサイ」。こちらは舌の肥えた地元タイ人や外国人定住者の間で「一番おいしい」と評価されることが多い店。それもそのはず、この店はカオソーイを含めて麺料理5種類しかメニューになく、まさに専門店の中の専門店なのだ。カオソーイにこだわり続けて毎日丹精込めて仕込んでいるのだから、おいしくないハズがない。

住宅街の一角のほんの小さな食堂で、うっかりしていると看板を見落として通り過ぎてしまうほどだが、ランチタイムには満席必至となる人気店である。

この店のカオソーイ(45バーツ/149円)の味わいも、カオソーイ・サムージャイと同じ「カオソーイの王道」を踏襲している。比較するとこの店は、ココナッツミルクのクリーミィな味わいが際立っているのが特長で、ピリリと辛めに仕上がったカレースープのコクと深みが食べ進むに従って浮かび上がってくるのだ。

ここでカオソーイについてくる薬味三種「ライム・からし菜の漬物・赤たまねぎ」の上手な使い方を伝授しよう。もちろん使い方は自由なのだが、最初の段階ではやはり薬味なしで食べ始めて「お店の味付け」を堪能してほしい。次に「ライム」をしぼるとスープが酸味でキリッとしまった感触となり、華やかさを増す。

「からし菜の漬物」と「赤たまねぎ」は箸休めにつまむのも悪くないが、タイでは具として料理に混ぜ込んだり調味料的に使われるのが一般的だ。それぞれ素材の主張が強いので、入れすぎると全体の印象が変わってしまうので注意が必要である。

これら脇役の活躍もあって、カオソーイは最初のひとくちから最後のスープの一滴まで、カラフルな味覚と食感の変化が楽しめるのである。

ハラルストリートで「カオソーイのルーツ」を探る!

カオソーイは隣国ビルマ(ミャンマー)から伝来したという説が有力で、実際にミャンマーにはオンノ・カウスエという似通った麺料理がある。さらに元々は中国雲南省から移住してきたイスラム教徒の食文化が原型とも言われているが、雲南系ムスリムの交易ルートや移住経路などを辿ってみると、恐らくいずれも正解なのだろうと推測できる。

そんなカオソーイのルーツといっていい「雲南ムスリム風カオソーイ」が食べられる店を紹介しよう。

毎夜ナイトバザールが展開されるチャンクラン通りエリアに、王和清真寺という100年以上の歴史をもつイスラム教モスクがある。このモスクを中心として雲南から越境してきたムスリム居住区が形成されており、その一角に「カオソーイ・フアンファー(雲南小吃)」という食堂がある。並びに「カオソーイ・イスラム」という有名店もあるが、筆者はカオソーイ・フアンファーの方をオススメする。

厨房に立つのはヒジャブで髪を覆った雰囲気のよい女性。イスラム教義に則ったハラル料理の店なので、豚肉を使ったものはメニューにない。牛肉を具にした「カオソーイ・ヌア」(40バーツ/132円)を注文してみよう。

スープは今まで紹介してきた「王道系」と比較すると「あっさり」している。カレーやハーブ等の効果はかくし味程度といっていいだろう。前項で薬味三種の使い方を説明したが、雲南ムスリム風カオソーイの場合は特に「からし菜の漬物」でお好みの味に調えるのが前提なのだろう。この漬物ではタイで一般的なからし菜の酢漬けとは趣きが異なり、濃厚なコクと甘味を強調した独特の仕上がりになっている。漬物だけをつまむと甘味が強くてくどい印象を受けるが、カオソーイの具、または調味料代わりに使用すると、クリーミィなスープと調和して絶妙な味わいに変貌するのだ。

タイの首都・バンコクでは近年カオソーイを食べられる店が増えてきたが、日本国内での周知度はまだまだ。幾多あるタイ料理メニューの中でもこれほど日本人の好みにぴったり合うものはないと思う。日本でのブレークに備えて、今のうちに本場チェンマイで「先取り」してみてはいかがだろう?

●カオソーイ・サムージャイ
ピン川東岸チャルンラート通りをナワラット橋から約2キロ北上した左側にある(ラッタナコーシン通りを越えて500メートル)。ワット・ファーハームの隣。トゥクトゥク・ソンテウ等でターペー門から15分目安。
営業時間:8:30~17:00(無休)

●カオソーイ・メーサイ
チェンマイ旧市街から北西側のサンティタム地区にある。近辺は細い道が入り組んでいてわかりづらいので、事前に下調べしてから出かけること。トゥクトゥク等で向かう場合は北部タイ料理店「フアン・ムアンジャイ」を指定すると、その斜向かいにある。
営業時間 8:30~16:00(不定休)

●カオソーイ・フアンファー(雲南小吃)
チャンクラン通り(ナイトバザール)のもっとも北寄りの東側ソイ(路地)の入口ゲート「HALAL STREET HILAL TOWN」が目印。ゲートを入って90メートル先左側。
営業時間:7:00~21:00(不定休)

●注:記載した情報は2018年6月現在のもの。日本円は「1バーツ=3.3円」で計算。

文・写真/横山忠道
タイ在住ライター。2004年に日タイ政府間合弁技術者育成事業に従事したのを端緒とし、その後一貫して日タイを繋ぐ活動に専念。2014年にチェンマイ移住。リサーチ・分析スキルを持ち味とした執筆活動を続ける。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。

 

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