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夏目漱石、伊藤若冲、徳川家光が描いた脱力系の問題作を見よ!【へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで】

取材・文/藤田麻希

昨今、「ゆるい」「脱力系」と表現されるような、決して上手く描かれたわけではないけれども魅力的なイラストやキャラクターなどが人気を集めています。このようなものを尊ぶことは、なにも近年始まったわけではありません。禅画、文人画、南画など、江戸時代の絵画にも、完璧とはいえない「ゆるい」描き方のものが存在します。

そんな作品を「へそまがり」という言葉を切り口に解釈しようとする展覧会、「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」が、府中市美術館で開かれています。この展覧会の担当学芸員・金子信久さんは次のように、「へそまがり」を説明します。

「きれいとは言えないもの、完璧とはいえないもの、不格好なもの、あるいは不完全なもの。そういうものになぜか心惹かれる日本人の感性があります。それをなんと言ったらよいのかわからなかったのですけれども、あるとき“へそまがり”の感性と言ってみようと思いました。そんな、感性が生み出した日本美術を見てみようというのが今回の展覧会の趣旨です」

春叢紹珠 《皿回し布袋図》 個人蔵

春叢紹珠 《皿回し布袋図》 個人蔵

まずは作品を見ていきましょう。「へそまがり」作品を多数排出しているジャンルに「禅画」があります。七福神の一人でもある布袋は、中国の偉い禅僧です。禅画の定番の画題として室町時代頃にも盛んに描かれましたが、江戸時代に入ると一種のキャラクター化し、この絵では皿回しの芸を披露しています。布袋が乗っている石のようなものは、施しを受けたものなどを入れる頭陀袋です。この芸でいろいろなものを手に入れたのでしょうか。

仙厓義梵 《十六羅漢図》 個人蔵

仙厓義梵 《十六羅漢図》 個人蔵

仙厓義梵は、江戸時代に博多・聖福寺を拠点に活動した禅僧で、隠居後に型破りな画風の絵を描き、人々に与えました。この絵は、羅漢と呼ばれる、悟りを開いた高僧を描いたものですが、なぜか羅漢の頭部しか描かれていません。目からはビームを発射しているものもいます。羅漢の持つ「神通力」と呼ばれる不思議な力を描いた作品はほかにもありますが、目からビームの表現は他にありません。

夏目漱石 《柳下騎驢図》 個人蔵

夏目漱石 《柳下騎驢図》 個人蔵

夏目漱石は幼少期から漢文や掛け軸など書画に親しんでおり、晩年、自ら南画を描きました。南画は、中国趣味の絵画のジャンルで、職業画家の描く世俗的な絵ではなく、下手でもよいから心の高みを表現した方が、価値があると考えます。漱石の作品は、決して上手ではありませんが、丁寧にじっくり描いていることが伝わります。

このような作品を「素朴」と言うこともありますが、「素朴」という言葉の使用には注意が必要だと金子さんは言います。

「大人は、子どもが描いた絵を見て“かわいい”と思うことがあります。しかし、子どもは、決してかわいいものを狙ったわけではなく、大真面目に描いています。ですので、『かわいい』という評価は、描いた人の意図に沿っているかどうか、という点からすると、誤解が生じています。しかし、“かわいい“と頭のなかで感じること自体は、その人にとっての真実です。面白いですね。つまり、『素朴な美』というのは、第三者の目が素朴でない美術と比較してはじめて成り立つ感覚だということです。それを裏返せば、意図的に素朴な美をつくりだすことも可能であるということになります」

伊藤若冲 「伏見人形図」 個人蔵 ※前期のみの展示(後期は別の若冲の《伏見人形図》を展示予定)

伊藤若冲 「伏見人形図」 個人蔵
※前期のみの展示(後期は別の若冲の《伏見人形図》を展示予定)

伊藤若冲による、京都の伏見でつくられる民芸品・伏見人形を描いた掛け軸。異様に平べったい頭の形、体型はずんぐりむっくり。金子さん曰く「本当の伏見人形はこんなに左右アンバランスではないし、もっと整った形をしている」そうです。つまり、若冲は伏見人形を見て「素朴」でいいなと感じ、本当はもっとリアルに描くことができるのに、わざとデフォルメして稚拙な雰囲気を出そうとしているわけです。なにげなく見ていた絵ですが、たしかに「へそまがり」な気がしてきました。

徳川家光《兎図》 個人蔵

徳川家光 《兎図》 個人蔵

切り株の上にちょこんと座る兎が、真っ直ぐにこちらを見つめています。毛はかすれた線であらわされ、輪郭線はなぜか破線。目はやたら大きく、グリグリと真っ黒く塗りつぶされています。こんな絵、ほかに見たことがありません。描いたのは、江戸幕府三代将軍・徳川家光。武家諸法度、参勤交代制度の整備、鎖国体制の強化など、徳川体制の基礎をつくりあげた人です。そんな殿様中の殿様が、こんな絵を描くのです。家光には、かの有名な狩野探幽が仕えており、お手本を手に入れることは難しくなかったはずです。となると、この絵はうまく描くことを放棄して、わざと下手に描いたのでしょうか? それとも、ただの拙い絵なのでしょうか。謎が謎を呼びます。

しかも、立派な表装が施されおり、二重の箱に厳重に収められています。殿様は家臣に絵を下賜することも多かったそうです。この絵を拝領した人はどのような気持ちになったのでしょうか……。

この展覧会に出ている「へそまがり」作品は、狙って描いていることが全面に出てしまうと、とたんに魅力が半減してしまいます。今回の展覧会には「狙い? それとも本気?」と疑いたくなってしまうような、すれすれのラインをゆく優秀な「へそまがり」作品がたくさん。しかも、初公開作品が44点です。「くすっ」と笑える作品も多いですので、気負わずにご覧になってください。

【へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで】
■会期:2019年 3月16日[土]– 5月12日[日]
前期:3月16日[土]– 4月14日[日]
後期:4月16日[火]– 5月12日[日]
*全作品ではありませんが、大幅な展示替えを行います。
■会場:府中市美術館
■住所:〒183-0001 東京都府中市浅間町1-3
■電話番号:03-5777-8600 (ハローダイヤル)
■展覧会特設サイト:http://fam-exhibition.com/hesoten/
■開室時間:10:00 〜 17:00(入場は16:30まで)
■休館日:月曜日(4月29日、5月6日は開館)、5月7日[火]

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

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