
文・絵/牧野良幸
アメリカの俳優ロバート・レッドフォードさんが2025年9月に亡くなられた。89歳だったそうだ。
そこで今回はロバート・レッドフォードさんを偲び、特別編として洋画を取り上げたい。作品は『明日に向って撃て!』である。
この映画の公開は、アメリカでは1969年だったらしい。でも日本では1970年の公開。ちょうどB.J.トーマスが歌う映画の主題歌「雨にぬれても」が日本で大ヒットした頃だと思う。だから僕には『明日に向って撃て!』というと70年代の映画という意識が強い。
公開時、僕は小学六年生から中学一年生になる時期だったので、映画は観ていない。しかし「雨にぬれても」のシングル盤は兄貴が買ってきたので、僕もよく聴いていた。
2学年上の兄貴がレコードを買ってきたのは、もちろん映画を観たからである。兄貴はレコードを聴く僕に、映画のことを感激しながら話した。
「この映画はな、最後に主人公がな……」
今から思えば迷惑なネタバレなのだが、それを聞いて、ますます自分も観たくなったものである。
しかし当時はビデオがないのはもちろん、名画座というありがたい映画館も岡崎にはなかった。僕が実際に映画を観たのは何年も過ぎてからである。1970年代末、大学生の時に大阪か京都の名画座で観たのだと思う。以下、初めて観た時のことを思い出しつつ書いてみる。
舞台は1890年代のアメリカ西部だ。強盗を働く二人組ブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)とサンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)の物語。
ブッチは頭の切れがいい男。物腰が柔らかく宿場の女たちにもモテる。対してキッドは短気で、頭で考えるより銃に物を言わせるタイプ。西部では名の知れた早撃ちだ。
二人は銀行を襲ったり、列車を襲って荒稼ぎをするおたずね者だが、どこかユーモアがあり憎めない。時に辛辣な言葉を言い合うが、それも二人が楽しんでいるのがわかる。それまでのハリウッド映画や、当時流行っていたマカロニ・ウエスタンとも違い、タフでもなければヒーローっぽくもない主人公がとても新鮮だった。
バート・バカラックがつけた映画音楽も、スリルや緊張感をかき立てる音楽ではなく、極上のディナーのような音楽だ。それもあって初めてこの映画を観た時、従来のジャンルではない何か新しい作品を見ているような感覚があった。
そして、やはり思ったのは「ロバート・レッドフォードがかっこいい!」である。
洋画には二枚目俳優がたくさんいたけれども、これほどハンサムに思えた俳優はアラン・ドロン以来だろう。
(【面白すぎる日本映画 第94回・特別編】 https://serai.jp/hobby/1201287)
そのロバート・レッドフォードが、短気な荒くれ者だけど、女は恋人のエッタ(キャサリン・ロス)だけ、早撃ちガンマンだけど泳げない。強さも弱さも持っているサンダンス・キッドを演じているのだから、これはもう男も憧れる。
サンダンス・キッドの沈黙、笑顔、怒り、帽子が飛ばされ髪をなびかせながら銃を撃つ姿。映画を観ている間、ロバート・レッドフォードに釘付けだった。相棒のブッチが対照的なキャラクターだけになおさらだ(ポール・ニューマンの存在も大きいが)。
だがロバート・レッドフォードが演じるのは、西部の男くさいサンダンス・キッドだけではない。
強盗を重ねたブッチとサンダンスは、被害にあった鉄道会社が放った追跡者に追われ、エッタを伴い南米のボリビアに逃亡をはかる。
その道中、ニューヨークのカジノや社交場での豪遊場面は、セピア色の静止画で見せるうまい演出だが、ここでフォーマルな服に身を包んだサンダンスが映る。このロバート・レッドフォードは200%美男子で、ここで「うわっ、ロバート・レッドフォード、かっこいい!」と誰もが最終確認したのではないかと思う。
今見ると、このシーンのロバート・レッドフォードは、以後の彼の出演作の予告のような感じでもある。
再びポール・ニューマンと共演して話題となった『スティング』(1973年)での詐欺師ジョニー・フッカーにも通じるし、バーブラ・ストライサンドと共演した『追憶』(1973年)のハベル・ガードナーや、『華麗なるギャツビー』(1974年)のジェイ・ギャツビーなどを想起させると思うがどうだろう。
映画の主題歌「雨にぬれても」についても触れておこう。
中学生からレコードで聴いてきただけに、この曲が映画でどのように使われるのか。それが初めて映画を観た時、最大の関心だった。
今では有名な場面だが、曲が流れるのはエッタの家にブッチとサンダンスが一仕事終えて帰ってきた翌朝、ブッチとエッタが当時の発明である「自転車」で二人乗りをするシーンだ。
曲はてっきりインストロメンタルで使用されると予想していたのだが、レコードと同じB.J.トーマスの歌で流れたのは涙ものだった。今でいうミュージック・ビデオのような感覚でこのシーンを観た。
兄貴が話してくれた有名なラストシーンも、初めて観た時はジーンときた。この映画が「アメリカン・ニューシネマ」の代表作と僕が知るのは、さらに後のことであって、そんな知識がなくても心に残るラストだった。最後に流れる音楽も哀愁があり、おとぎ話が終わったかのようなエンディングだ。
『明日に向って撃て!』は、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが演じてこその映画と思う。特にロバート・レッドフォードのサンダンス・キッドは、西部の荒くれ者から都会的紳士まで、その振り幅の大きさで観る者を魅了する。映画のロバート・レッドフォードは僕の描いたイラストより遥かにかっこいいので、ぜひ観てもらえたらと思う。
【今日の面白すぎる日本映画・特別編】
『明日に向って撃て!』
1969年(日本公開1970年)
上映時間:110分
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
脚本:ウィリアム・ゴールドマン
出演者:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス、ほか
音楽:バート・バカラック
主題歌: B.J.トーマス『雨にぬれても』
文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。
ホームページ https://mackie.jp/

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