子どもの頃からのチーズ好きが高じて、チーズ工房を設立。多忙な一日は、今日もヨーグルトと果物の朝食から始まる。
【鶴見和子さんの定番・朝めし自慢】
東京都青梅市に小さなチーズ工房がある。『フロマージュ・デュ・テロワール』である。フロマージュとはフランス語でチーズのこと。テロワールとはその土地らしさほどの意味。店名に込めた思いを、店主の鶴見和子さんが語る。
「東京には酪農家さんが50軒ほどもあることから、東京と青梅という土地に思いを込めたチーズを作ろうと、この店名にしたのです。主原料の生乳や塩は東京産。ウォッシュタイプのチーズには青梅の酒蔵の日本酒を使っています」
チーズの製造に欠かせない乳酸菌も、生乳から自家培養する。青梅の名前を冠した看板商品の「フロマージュ・ドーメ」は、味噌や酒粕のような独特の風味が特徴だ。
「その土地や工房に棲みついた“蔵つき菌”のようなものが、特有の風味を生み出してくれます」
東京・文京区に生まれた。高校卒業後はカメラマンを目指したが、挫折。子どもの頃からチーズが好きで、チーズショップで働くようになる。さらに、チーズのラベルが読みたいとフランスに語学留学。その滞在中に、面白そうだからと“ENIL”(フランスの乳製品専門学校)に入学し、その他でも修業。チーズ作りを始め、チーズに関するあらゆる知識と技術を学んだ。振り返れば、フランスでのチーズ修業は5年にも及ぶ。
2010年に帰国。その4年後、56歳で設立したのが『フロマージュ・デュ・テロワール』である。
主食の代わりとなる果物
チーズ工房店主の朝食は簡素だ。ヨーグルトをかけた果物にミルクティーという献立。今の朝食に落ち着いたのは、フランスから帰国してからだという。
「フランスでは寮生活だったので、いわゆる学食での朝食でした。パンにコーヒーか紅茶、ココアなどの飲み物、ちょっと気の利いた寮ならそれに果物かジュースが付く程度。今は主食のパンの代わりになるのが果物です」
幼少の頃から牛乳とプロセスチーズが大好きだった。ナチュラルチーズに出会ったのは高校生の時。初めて食べたのはフランスのチーズ「シュプレム」、30代でドイツのチーズ「カンボゾーラ」に衝撃を受けた。その時々を、チーズが彩ってくれた半生である。
ゆくゆくはチーズの学校を作り、知識と技術を後進に手渡したい
『フロマージュ・デュ・テロワール』では不定期ではあるが、チーズ教室を開講している。10数回目となるこの度の受講生はふたり。東京のワインスクールでチーズ講師を務める佐々木健治さんと、佐賀の嬉野で酪農業に携わる中島千明さんだ。佐々木さんがいう。
「チーズの知識はあるが、実際に作っている現場を見たかった」
中島さんも受講の動機を語る。
「大分で開かれた鶴見さんの講座に参加して以来、工房でのチーズ作りを見たいと思っていました」
今回挑戦するのは、モッツァレラチーズ。午前9時から1時間ほどの講義があり、いよいよ実践。モッツァレラはフランスのチーズではない。鶴見さんはイタリアでモッツァレラの製造を学んだが、工房では少し作り方を変えている。
「試行錯誤の日々だけれど、それが面白いのです。チーズ作りにはロマンがあります」
午後1時にはモッツァレラが完成し、皆で試食。出来たてが美味しい。ゆくゆくはチーズの学校を作り、これまでに学んだチーズの知識や技術を、後進の人たちに手渡せれば嬉しいという。
※この記事は『サライ』本誌2024年3月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆)