縁あって絵手紙美術館を設立。二人三脚の絵手紙作家の健康の源は、人参林檎ジュースと無農薬栽培の野菜が並ぶ朝食だ。
【瀧下白峰・むつ子夫妻の定番・朝めし自慢】
千葉県八千代市に『やちよ絵手紙の森美術館』がある。この私設美術館設立の発端は、今から20年ほど前に遡る。
瀧下白峰(たきしたはくほう)さん49歳の時、それは起きた。パワハラによる鬱病を発症。子どもは大学生と高校生だったが会社を退職。病院で治療を受けながらも、3年半に及ぶ引きこもり生活が続いた。2度の自殺未遂。自分という人間に価値が見いだせない。船でいえば羅針盤を失った状態で、進むべき方位がわからない。そんな時、心療内科の医師からいわれた言葉がある。
「君の命は天から頂いた命。人は、人のために何かを成すという使命を帯びて生まれてくるものだ。まずは趣味を通して、生き甲斐を見つけようと……」
趣味といえば、書道である。銀行マンだった父は40歳過ぎで独立し、書道塾を始めた。その影響で、白峰さんは幼少の頃から書に親しんできた。子どもたちのための書道塾から生き甲斐を見つけよう。
時は絵手紙ブーム。絵が得意な妻のむつ子さんが絵を描いて文を考案し、白峰さんがその文を書にする。こうして二人三脚の絵手紙が生まれた。むつ子さんが語る。
「そんなある日、通院していた病院の総務部長からロビーで作品展をやりませんかという誘いがあり、感想を書く“意見箱”まで用意してくれたのです」
その意見箱に“俺ももう一回、真剣に生きてみたいと思う”という鬱病患者からのメッセージが入っていた。これを機に美術館設立を思い立つ。16年前のことである。
朝はジュース作りから始まる
現在、白峰さんは週3回の書道塾、むつ子さんは4か所の絵手紙教室に加えて、美術館の仕事もある。共に多忙な毎日だが、健康の秘訣は人参林檎ジュースである。
「自然医療の石原結實先生から教わったジュースで、がん予防にも効果があるとも。わが家の朝食には20年ほど前からコップ1杯のこのジュースが定番。僕の朝はジュース作りから始まります」
健康法がもうひとつ。自家菜園で育てている無農薬野菜だ。自宅裏にあるので、リーフレタスやブロッコリーなどを毎朝摘んではサラダに。絵手紙作家の健康は、ジュースと無農薬野菜が支えている。
絵手紙で役に立つのが、“頂いた命の恩返し”である
多くの人に、生きる勇気と幸せに繋がるメッセージになればと設立した『やちよ絵手紙の森美術館』。むつ子さんの描く淡い絵に白峰さんの優しい筆文字が加わり、穏やかな世界が広がっている。
「書に関して家内からいわれたのは、くずしすぎないこと、変体仮名を使わないこと。読めなければ私たちの気持ちは伝わらない。だから、誰にでも読める書にしてほしい、ということでした」
白峰さんは漢詩・漢文ばかりの父に反発し、一時、金子鷗亭が提唱した近代詩文書の「創玄書道会」で学んだ。師事したのは、日展審査委員の田岡正堂である。
「近代詩文書とは、“漢字仮名交じり書”のこと。日常生活と密接な関係にある口語体や自由詩も書の素材たりえるというものです」
近代詩文書を学んだことが、絵手紙に生きた。むつ子さんの要望にも応えることができた。
絵手紙で役に立ちたいと、戦時下にあるウクライナの子どもたちに救援金を送付。またトルコ地震で避難生活を余儀なくされている子どもたちにも送る予定だ。“頂いた命の恩返し”である。
『やちよ絵手紙の森美術館』
千葉県八千代市村上南2-16-25
電話:047・487・6265
休館日:月曜(月曜祝日の場合は火曜)、毎月末/月曜・火曜
開館時間:10時〜16時
入館料:一般500円(小・中学生200円)、団体(10名以上400円)。
作品は季節や行事ごとに入れ替える。
※この記事は『サライ』本誌2023年8月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )