ライターI(以下I):第3回では、イッセー尾形さん演じる鳥居忠吉が今川の城代の目を盗んで銭や武具をため込んでいたことが描かれました。
編集者A(以下A): このくだりは有名なエピソードですが、なんだか鳥居家のシーンを見ると、その後の鳥居家の行く末のことが頭をよぎって、じんわりきちゃうんですよね。
I:そんなこといっていると「伏見城の別れ」のハードルがあがってしまいますよ(笑)。
A:鳥居忠吉の才覚で貯められた軍資金や武具がたくさんあることを喜んだ酒井忠次(演・大森南朋)らが、「えびすくい」踊りでその感情を表現したシーンもありました。
I:このえびすくい踊り。なんだか楽しそうですよね。
A:酒井忠次がえびすくい踊りをしていたというのは知られていますが、実際にどんな踊りかはわかっていないようです。せっかく劇中で「復興」させたのですから、何度も登場させてほしいですし、酒井家の城下町山形県鶴岡市でも大々的にやってくれないかなあと思います。
I:静岡や浜松、岡崎でなくていいんですか?
A:えびすくい踊りは酒井家城下町の鶴岡一択でしょう。出羽三山にも近く、周辺には即身仏を安置する寺もいくつかあります。庄内藩は藤沢周平さんの小説に登場する海坂藩のモデルで、小説の中にでてくる五間川はじめ「海坂藩の風景」も堪能できます。さらに藩校致道館を由来とする致道博物館は酒井家庭園、藩主御隠殿の建物など見どころの多い時代物テーマパークのような感じです。とても一泊では回り切れません(笑)。
I:私も行ったことがありますが、ほんとうにいい城下町ですよね。
キーマン水野信元登場
I:さて、第1回の今川義元(演・野村萬斎)、第2回の登譽上人(演・里見浩太朗)に続くキーマンが今週も登場しました。元康の生母於大(演・松嶋菜々子)の実兄水野信元(演・寺島進)です。なんだか「サイコロ」好きの設定でした。
A:人が出世するにあたって、本人の実力以上に大事なのが「運」と「縁」。「運」を引き寄せるのも実力のうちといえばそうなのですが、その「運」を引き寄せるのが「縁」。水野信元は博打にうつつを抜かす設定での登場ですが、得てしてそういう人物が取り持ち役になることがありますからね。
I:現代でも人と人の取り持ち役になることを楽しんでいる人は多いですよね。水野信元は〈この世を渡るはしょせん博打よ。これを見誤るやつは生き延びられん〉と豪語していますが、知多半島でそれなりの勢力を維持していた武将ということは押さえておきたいですね。
A:その水野信元が元康と会談し、織田方につくように勧め、於大(演・松嶋菜々子)との再会を演出します。於大の再婚相手として久松長家(演・リリー・フランキー)も登場しましたが、両者の間にできた子息は久松松平氏として伊予松山藩主などを務めます。NHKアナウンサーだった松平定知さんもこの流れですから歴史はほんとうに面白い。
I:家康は、異母弟をも大名に取り立てたんですね。
A:40年前の大河ドラマ『徳川家康』では当時26歳だった大竹しのぶさんが於大を演じました。竹千代との対面も成長した元康(演・滝田栄)との対面もお涙頂戴のシーンだっただけに、本作での対面がどう描かれるか楽しみでした。
I:最初は久方ぶりの対面に手を差し出して〈母上のことをこころの中でずっとお慕いしておりました〉と抱擁を交わします。
A:ここまでは、お涙頂戴の感じでした。ところが一転、於大が今川と手を切れと元康に迫ります。
I:感動の再会が台無しになってしまいましたね。
A:「感動の対面」と「今川と手を切れと迫る実母」――。この場面、どちらが「戦国のリアル」なんだろうと思って見ていました。ドラマ的には「今川と織田、どちらにつくの?」で「どうする?」 ということなのでしょうけど。
【三河衆の女房たちが氏真の命で処刑。「リアルな戦国」の描写。次ページに続きます】