鎌倉幕府から始まった武家政権を引き継ぎ、平和な世を開いた徳川家康(右/演・松本潤)。(C)NHK

編集者A(以下A):大晦日の紅白歌合戦を見ていて驚きました。なんと前半戦の最後に『鎌倉殿の13人』で北条義時を演じた小栗旬さんが登場して、『どうする家康』で徳川家康役を演じる松本潤さんとの間で、紅白ステージ上でのバトンリレーが実現しました。

ライターI(以下I):源頼朝を演じた大泉洋さんが司会を務めていたこともあって、〈佐殿!〉〈小四郎!〉というやり取りが交わされました。それだけではなく審査員を務めていた坂東彌十郎さん(北条時政役)にステージ上から〈父上!〉と手を振っていましたね。

A:彌十郎さんの脇には仁田忠常を演じた高岸宏行さん。『鎌倉殿の13人』を応援していた視聴者にとってはうれしいサプライズでした。そして、ステージ上では、小栗旬さんと松本潤さんががっちり握手を交わしました。

I:松本潤さんは〈このドラマはひとりの弱き少年が乱世を終わらせた奇跡と希望の物語です。徳川家康は戦乱の世に生まれながらも愛と平和を大切にし、新たな時代を作り上げた人物です。そんな徳川家康を皆さんに愛していただけるよう精一杯演じていきたいと思います〉と意気込みを語ってくれました。

A:ステージ上では、松本潤さんが〈友人である小栗さんから大河の主演のバトンを引き継げること、とても誇りに思います〉と小栗旬さんに語りかけました。このために小栗さんが時間を割いたというのはふたりの関係性あってのことだと思われます。

I:なるほど。

A:おふたりが共演したドラマ『ごくせん 第1シリーズ』(2002年)、『花より男子』(2005年~)をたまたま両作とも見ていたので、なんだか感慨深いですね。特に『ごくせん』のほうは、仲間由紀恵さんが『功名が辻』(2006年)、松山ケンイチさんが『平清盛』(2012年)、小栗旬さんが『鎌倉殿の13人』(2022年)、そして松本潤さんが『どうする家康』(2023年)と4人の大河主演俳優を輩出しています。すごいことではないですか?

I:それはすごいですね。

北条義時から徳川家康へバトンが渡された意味を考える

I:さて、それはともかく、私たちは紅白のステージ上で北条義時から徳川家康にバトンが渡されたという視点で、その意味を考えたいと思います。

A:北条義時は源頼朝が築いた武家政権を確立した存在ですが、『鎌倉殿の13人』で描かれたように有力な御家人を次々と粛清しました。しかも源頼家殺害にも関与しています。承久の乱以降は、皇位継承も幕府の承諾なくしてはままならなくなるほどその地位は逆転しました。

I:大量の血を流した末に武家政権の基盤を作ったということですね。息子の泰時の代には御成敗式目が制定されます。

A:政権が安定するかに見えましたが、泰時の次男時実が不可解な死を遂げるなど不穏な空気は続いていました。そして、泰時が亡くなった後には、再び争いが始まり、有力御家人三浦氏が滅ぼされます。元寇という対外戦争もありましたが、安達氏を滅ぼした霜月騒動で有力御家人は一掃されます。

I:面白いのは、粛清の対象は御家人だけではなくなってくることですよね。『鎌倉殿の13人』で鶴丸というキャラクターが平盛綱を名乗るようになりましたが、盛綱の孫にあたる頼綱が粛清の対象になるなど、北条一族内の内ゲバが始まります。

A:そんなこんなで、後醍醐天皇の討幕運動に足利氏などが呼応して鎌倉幕府が滅びます。

I:室町幕府の時代がくるわけですね。

A:この室町幕府ですが、南北朝の争いで戦乱続き。この南北朝の争いも、持明院統と大覚寺統の皇位継承の争いに対し、鎌倉幕府があいまいな処置をしたことが端緒になっています。

I:南北朝は足利義満の代に統一されますが、平和になったわけではありません。もっとも力のあった義満時代にも有力守護大名の討伐があったわけですから。

A:そして、6代将軍義教は暗殺され、8代将軍義政の時代に応仁の乱が勃発して戦国時代に突入します。

I:つまり頼朝、義時が築いた武家政権は、不安定なまま織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、いわゆる三英傑の時代になっていくわけですね。

A:尾張や三河という狭い地域に三英傑が結集したのは奇跡的な出来事ですね。『どうする家康』では、そうした時代が描かれるわけです。足利一門である名門今川義元を討ち取るという番狂わせをおこした織田信長など、奇跡が歴史を動かしていく。

I:なんだかわくわくしますね。紅白のステージ上で、北条義時と徳川家康ががっちり握手を交わした場面は、歴史的にも重要な場面になったと思います。

A:小栗旬さん、松本潤さんはいずれも演技に関しては求道者であるという印象を持っています。両者が紡ぎ出す物語のことを当欄では1年前から「2年にわたる歴史叙事詩が始まる」と期待感を表明してきました(https://serai.jp/hobby/1056634)。今、ついに第二幕が始まります。

I:紅白のステージは、その始まりだったんですね。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康  戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年1月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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