I:「リアルな戦国」の描写といえば、瀬名(演・有村架純)と仲のよかった三河衆の女房たちが氏真の命で処刑される場面も登場しました。一見軽いタッチで進んでいますが、しっかりこういう場面が挿入されるのは評価したいと思います。1983年の『徳川家康』では女房衆が磔にされていました。戦国の世のならいとはいえ、残虐この上ない仕打ち。本当は瀬名も処刑の対象になってもおかしくはないのですが、今川義元の姪という立場があって命だけは救われたんですよね。そして、酒井忠次と石川数正(演・松重豊)が三河の置かれた状況を懇々と元康に説明する場面もリアルでした。
A:合戦の場面でも、本多平八郎忠勝(演・山田裕貴)が討ち死に? という場面でも、誰々が討ち死にしたという報告の場面が挿入され、画面では戦死者から略奪する少年たちの様子も描かれました。「ああ、こういうところをしっかり表現してくれているんだ」とうれしくなりました。
I:女房衆の処刑は、前段で瀬名と仲良くやり取りしていただけに印象深い場面になりましたね。
A:吉良義昭(演・矢島健一)の登場も感慨深いです。この吉良家の流れがやがて赤穂事件の吉良上野介に連なるということもありますし、そもそも三河の吉良家は足利一族の名門中の名門。1991年の大河ドラマ『太平記』でも挙兵を決意した足利尊氏を吉良貞義(演・山内明)が讃えるという場面がありました。三河は『鎌倉殿の13人』の時代から足利一族の所領ですし、そもそも今川家初代国氏(くにうじ)は吉良長氏の次男です。
徳川ゆかりの寺院に眠る於大の方
I:そういえば、於大の方の墓所が東京の伝通院にあります。東京ドームから徒歩圏内ですが、江戸時代には増上寺や寛永寺と並び立つ将軍家ゆかりの寺院として崇敬を集めた名刹です。於大の方だけでなく、孫の千姫や家康56歳の時に側室に迎えた17歳のお夏の方の墓所もありますね。
A:幕末には後に新撰組に発展する浪士たちが集合した場所でもありますね(厳密には伝通院の塔頭)。於大の方は神君家康公の御母堂ですから将軍家ゆかりの寺院に墓所があるのは当然のことですが、実家の水野家の系譜も幕末まで続きます。
I:日本史の教科書でおなじみの「天保の改革」を実践した老中水野忠邦がこの水野家末裔なんですよね。
若き「ヘタレ」な元康を好演!
A:いや、しかし第3回は見どころ満載でした。元康の母との対面もいい場面でしたが、相変わらず、〈いやじゃあ〉〈わしは今川の家臣じゃあ〉〈わしは駿府に帰るんじゃあ〉と〈じゃあ~〉が多用されています。これは、まだ10代で頼りなかった元康を意図的に強調したいのではないかと感じています。その「まだまだヘタレ時代」の元康を松本潤さんが、絶妙に演じているんですよね。
I:大河ドラマの家康というと、当時33歳だった滝田栄さん(1983年『徳川家康』)を除いてもフランキー堺さん(1981年『おんな太閤記』)や津川雅彦さん(2000年『葵 徳川三代』)など重厚感のある俳優をイメージしてしまう人も多いようです。でも、桶狭間直後の松平元康はまだ10代。『どうする家康』第3話の段階で貫禄があったら逆にリアリティがないと感じてしまいます。
A:その松平元康がいつ覚醒するのか? 前年の『鎌倉殿の13人』の北条義時(演・小栗旬)も源頼朝が亡くなってからどんどん変わっていきました。元康はやがて家康になります。どの段階でバージョンアップするのか? ほんとうに楽しみです。
I:そういえば、1983年の『徳川家康』の滝田栄さん(当時33歳)と大竹しのぶさん(当時26歳)って、母親役の大竹さんが7つも年下だったんですね。
A:当時私は中学生でしたが、違和感なかったなぁ(笑)。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり