文・石川真禧照(自動車生活探険家)
主動力は電気モーター。だが電気自動車のように急速充電器は必要なく、遠出の際に電池残量を気にすることもない。エンジンで発電し、電気の力でごく静かに走る、新しい様式のSUVが登場した。
自動車を動かす動力源は、ガソリンや軽油を使用するエンジンが主流だ。しかし近年は、トヨタが得意とするエンジン+モーターによるハイブリッド車や、モーターだけで走行する電気自動車(EV)が増えてきた。
そのなかで日産は「eパワー」と呼ばれる独自の手法でエコカーを開発し、実用化している。エンジンとモーターを搭載しているのだが、車の駆動力となるのはモーターだけ。エンジンは、そのモーターに電気を供給するための“発電機”として使用する。
日産は「リーフ」という100%電気モーター駆動のEVを10年前から市販化しているが、EVは原価が高い電池の搭載量が多く、車両価格が高くなってしまう。そこでモーターを主にし、エンジンを発電機として使う方法を実用化した。こうすれば電池の搭載量が少なくて済む。軽量化に加え、価格も抑えられて一石二鳥だ。実用第1号は2016年に発売した小型2ボックスカーの「ノート」だった。以降、1ボックスカーの「セレナ」でも実用化し、eパワーに関する技術力を高めてきた。
走りも価格も軽やか
今年6月、日産が久々に新型車を発売した。小型SUV(多目的スポーツ車)の「キックス」だ。
車体の全長は4.3mを切っている。トヨタ/プリウスなどより短く、ホンダ/フリード+やマツダ/CX -3とほぼ同じサイズで、扱いやすい。一方、全幅は広め。それでも日産/セレナより20mm広いだけなので、日本の狭い道でも困ることはない。車両重量はEVの日産リーフよりも300kg以上軽く、車両価格も抑えられている。
アクセルペダルから足を離すと減速充電が働き、強く減速
日産/ノートや同/セレナのeパワーよりも進化した、最新のキックスに試乗してみよう。
始動/停止ボタンを押し、変速レバーを「D」(ドライブモード)にシフトする。さらにS(スマート)/エコ/B(ノーマル)の3モードが選べる。エコモードは燃費を重視した設定で、街中や渋滞路で使用すると便利。発進はややゆったりとしていて、アクセルペダルから足を離すとエンジンブレーキがかかったみたいに減速し、そのまま走るとブレーキペダルを踏まなくても車が停止する。Sモードに切り替えると加速が速くな り、アクセルペダルを離した時の減速がやや緩やかになるが、やがて自然に停止する。このエンジンブレーキがかかっているような状態の時に、エンジンが発電機の役目を果たし、充電しているのだ。
高速走行ではエンジンが始動する。モーターを動かす電力が不足するので、エンジン始動で発電し、電力が供給されるのだ。
今回の試乗でのガソリンの消費量は、14~21km/Lだった。街中では20km/L超、高速では14km/L前後。電気の使い方を考えながらのドライブは、ちょっと知的なドライブの時間だった。
日産/キックス X ツートーンインテリアエディション
全長×全幅×全高4290×1760×1610mm
ホイールベース2620mm
車両重量1350kg
エンジン:モーター直列3気筒DOHC、1198㏄:交流同期発動機
最高出力82PS/6000rpm:129PS
最大トルク10.5kg-m/3600~5200rpm:26.5kg-m
駆動方式前輪駆動
燃費消費率21.6km/L(WLTCモード)
使用燃料無鉛レギュラーガソリン 41L
変速機形式:─
サスペンション前:ストラット式 後:トーションビーム式
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
乗車定員5名
車両価格286万9900円(消費税込み)
問い合わせ先:お客様相談室 0120・315・232
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2020年12月号より転載しました。