文/石川真禧照(自動車生活探険家)
車を発明したのはドイツ人だが、世界一古い量産メーカーはフランスの「プジョー」である。“猫足”とよばれるしなやかな乗り心地に、最先端の運転支援技術を搭載したフランスセダンの魅力に迫る。
我が国では輸入車というと、まず第一にドイツ車がよく知られている。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェなど、ドイツには知名度の高い自動車メーカーが揃っているので無理もない。実際に輸入乗用車台数の6割はドイツ車で、残りの4割を他国と日本メーカーの海外生産車が占めている。そのなかでフランス車は、ごく一部の車好きが好む車、と考えている人が多いのではないか。
しかし、長い自動車の歴史を表した、こんな名言がある。
「ドイツ人が発明し、フランス人が育て、イタリア人が化粧し、イギリス人がそれを楽しむ」
世界最古の量産メーカー
「プジョー」の歴史をひもとくと、1889年に蒸気エンジンの3輪自動車を4台製作したのが自動車メーカーとしてのスタート。以来、130年間も自動車を量産している。これは量産自動車メーカーとして世界最古である。プジョーは、自動車製造以前からペッパーミル(コショウ挽き)や自転車を製造しており、とくにペッパーミルは世界で広く使われてきた。
そんなプジョーが長年つくり続けてきたのは、実用に徹した車である。フランスらしいおしゃれなデザインや色使いよりも、長年使用しても壊れずに働く剛健さを重視。それをフランス人は“良妻賢母のような車”と表現してきた。
車の足回りで重要な「ショックアブソーバー」は、自社で製作している。これは路面からの衝撃を吸収する部品である。その結果、プジョー車の乗り心地はきわめてしなやかで、山道などでも猫のように柔らかく路面をつかんで走ることから「猫足」と表現される。
プジョーの最上級セダンである「508」は、そんな伝統の乗り心地のよさはそのままに、最新のドイツ車にも負けない先進安全技術や快適装備を満載している。
多くのフランス人は車を生活道具の一部分としか考えていない。パリの狭い道を走り、狭いスペースに駐車するための道具だから、大きな車は不要、大排気量、大馬力の車も必要ない、と考える。そんな文化が生み出した実用性の高い上級セダンが「508」である。
12個の超音波センサーや赤外線カメラ、レーダーを装備し、夜間の歩行者や二輪車を検知し警報を鳴らし、計器盤に表示する。前の車を追従し、車線を維持する機能、道路標識を読み取り表示する機能、自動駐車支援機能、など多くの先進技術が装備されている。
サスペンションや加速、変速は、路面状況に応じてエコ、コンフォート、ノーマル、スポーツの4つの設定を選択できる。これが絶妙で、伝統の“猫足”が確実に受け継がれていることを実感できる。
エンジンは1.6Lのガソリンターボと2Lのディーゼルターボを選べる。ディーゼルは低回転域から力があるので発進停止を繰り返す街中で使い勝手がよい。市街地の実燃費は10km/L近く、ディーゼルエンジン特有のノッキング音や振動も気にならない。価格はガソリン仕様より30万円以上高いが、心に残る一台である。
【プジョー/508 GT ブルーHDi】
全長× 全幅× 全高:4750×1860×1420mm
ホイールベース:2800mm
車両重量:1630kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ/2.0L
最高出力:177PS/3750rpm
最大トルク:40.8㎏-m/2000rpm
駆動方式:前輪駆動
燃料消費率:16.9㎞/L(WLTCモード 市街地12.9㎞/L)
使用燃料:軽油
ミッション形式:8速自動変速機
サスペンション:前/ストラット 後/マルチリンク
ブレーキ形式:前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
乗車定員:5名
車両価格:455万5556円
問い合わせ:プジョーコール 0120・840・240
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2019年11月号より転載しました。