最初は気楽に、「三角形」を描いてみる

--万年筆を上手に使うコツを教えてください。

古山「最初に“文字は書かない”ことです。なぜか自分の文字に対してコンプレックスを持っている人が多いんですよ。ましてや“万年筆を使って文字を書いてみましょう”なんて言われると、途端に拒絶反応が起こってしまう。そうすると、もう万年筆なんて手にしません。

でもね、万年筆で文字を書いたり、絵を描いたりする楽しみを知らないなんて、なんともったいない人生か、と思ってしまう。しかし、“文字コンプレックスを捨てましょう”と、お題目を唱えても、それでは何も解決しません。

ですから万年筆を持ったら、最初はペン先を滑らすように、ただ線を引いてみることをおすすめします。自由気ままに、上手下手を考えずに、紙いっぱいに万年筆を走らせます。

そうしていると、線だけでは飽きてきます(笑)。では、“次に三角形を描いてみましょう”、と。それも、ひと筆書きのように描くのではなく、一辺ずつ3回、線を引くように描きます。ひと筆書きだと、書き始めと書き終わりがうまくつながらないことも起きて、これもストレスになってしまうんですね。

三角形に飽きたら、次に四角形を描きましょう。これも一辺ずつ4回、線を引くように。三角形と四角形。とても簡単ですから、誰にでも描けますよね。そして、この三角形と四角形を交互につなげて描いていきます。こんなふうにして遊んでいるうち、万年筆の扱いに慣れてきます。上手下手はありませんから、しだいに万年筆を使う、つまり文字コンプレックスも薄れてきます」

万年筆を手にしたらすぐに文字は書かず、三角形と四角形をひたすら描いてみる。まずは万年筆を使うことに「慣れる」のが大事。

万年筆を手にしたらすぐに文字は書かず、三角形と四角形をひたすら描いてみる。まずは万年筆を使うことに「慣れる」のが大事。

古山「楽しければ、もっと万年筆を使いたくなりますよね。テクニックのひとつ目は、小さな紙を選ぶこと。ふたつ目は、小さめの三角形と四角形を描くこと。小さめに描くとたとえ形が歪(いびつ)でも目立ちませんから気楽です。3つ目は、あまり考えずに気の向くままに描くこと。ここから始まって、万年筆画の大作を描く人も出てきます」

古山さんが講師をつとめる東京・上野の森美術館アートスクール「万年筆画入門」講座での生徒さんたち。みな自分のテーマで、のびのびと万年筆を動かしている。

古山さんが講師をつとめる東京・上野の森美術館アートスクール「万年筆画入門」講座での生徒さんたち。みな自分のテーマで、のびのびと万年筆を動かしている。

古山「では、そろそろ文字を書いてみましょうか。もちろん、お手本を真似る必要はありません。遊びの延長でいいんです。たとえば、名刺サイズの小さなカードに、こんなふうに「あいうえお」と書いてみます。文字を書くというより、文字を“描く”感じで。カードいっぱいに書くと、なんとなく恰好がつきますね。

次に、文字の線で囲まれた一部を色鉛筆で塗ってみます。少し雰囲気が変わりました。この名刺サイズのカードを、葉書サイズの色カードの上にのせてみてください。ピンクとブルーで、だいぶ印象が違いますね。どちらが好きですか。そして、このまま額に入れると、自分の立派な作品になるわけです。

「あいうえお」の文字を“描いて”一部に色を塗る。これだけで、ひとつの小作品ができあがる。

「あいうえお」の文字を“描いて”一部に色を塗る。これだけで、ひとつの小作品ができあがる。

まずは、万年筆をぐんぐん滑らせて、手になじませてください。万年筆で“遊ぶ楽しみ”を知ってからなら、文字も気負わずに書けるようになりますよ」

万年筆という言葉の響きに気後れしたり、特別な筆記具という思い込みから身構えたりして、所有していても使うことを躊躇する人がいる一方で、文字コンプレックスが原因で、筆記具そのものに興味を示さない人もいるようです。

いずれにしても、万年筆という道具の魅力を知れば、人生における楽しみをひとつ得られたようなもの。ならば、徹底して“万年筆の遊楽”に身を沈めてみてはいかがでしょうか。

古山浩一(ふるやま・こういち)

古山浩一(ふるやま・こういち) 1955年、東京生まれ。画家。美術科教師を経て、絵画教室や万年筆画講座(上野の森美術館アートスクール)を開催。万年筆のコレクションはおよそ400本。著書に『万年筆の達人』(枻出版社)、『4本のヘミングウェイ』(グリーンアロー出版社)など、近著に『万年筆スケッチ入門』(枻出版社)。6月13日~19日に東京・銀座の「Oギャラリー」(TEL03-3567-7772)で個展を開催。Webサイト『町工場二階空目薬煙突工房』

取材・文/塙(はなわ)ちと
工芸分野を中心に取材するライター。著書に『書斎の極上品』(電子書籍)『個人美術館を行く』(いずれも小学館)、『男のきもの雑学ノート』『男のきもの達人ノート』(いずれもダイヤモンド社)など。

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