マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の問題を解説するシリーズ。今回は、管理職が部下をマネジメントする際に注意すべきポイントについて考察します。
「周囲から嫌われないように立ち回りたい」
どの管理職も心の中で抱えている思いではないでしょうか。誰からも好かれるマネジメントは一見、チームに調和をもたらすような気がします。一方で実際は致命的な組織上のエラーを引き起こすこともあるのです。嫌われたくないという思いがエラーを引き起こす理由を本記事では解説します。
大前提:リーダーの存在意義とは
そもそもリーダーの存在意義とはなんでしょうか。その答えは「チーム」を勝たせることです。チームが勝てば、最終的には会社全体の勝ちにつながり、給与や自社ブランドの向上につながります。結果的に部下はこの会社に所属してよかったと考えることでしょう。この順番が一丁目一番地です。
ところが、この前提を勘違いしてしまうと、リーダーはうまくいかなくなります。よくある失敗例が「自分の感情を優先してしまう場合」です。
例えば、
1.新人に対しては相談されやすいリーダーを目指そう
2.ルール違反を指摘されると面倒だろうから、破っても指摘をせずにしておこう
などが該当します。
一見「いい」リーダーのように見えますが、結局考えているのは自分のことだけです。
1.新人に対しては相談されやすいリーダーを目指そう=新人から優しいリーダーだと思われたい
2.ルール違反を指摘されると面倒だろうから、破っても指摘をせずにしておこう=ルール違反を指摘する細かい上司だと思われたくない
部下のことを考えているようで、実際は自分の嫌われたくないという思いが先行してしまっている状態です。さらに、こうした「いい上司」の存在意義の厄介なところは、指摘されなければ自分自身が間違っていることに気づかない点です。目線が部下に向いてしまっているので、部下から「いい上司だ」と判断されていると理解すると、それだけで「いいリーダー」ができているものと、存在意義を感じてしまいます。意外とみなさんの周囲にもいらっしゃるのではないでしょうか。
リーダーの存在意義の誤解は「環境」が生み出している
リーダーの存在意義はチームが勝つことのみです。これを達成して初めて、チームメンバーが成長し、評価が上がるなどの報酬を受け取ることができます。いわれてみれば当たり前のように感じることですが、なぜこうした当たり前がなおざりになってしまうのでしょうか。
その理由は多くの場合「環境」に起因しています。個人の問題ではないことが多いのです。
人はその環境を認識して行動するという性質を持ち合わせています。仕事の場合は、組織環境を司っているものは仕組みでありルールです。
例えば、綺麗な公園は、綺麗にする役割の人がいるというルール、定期で掃除するというルール、どう掃除するかというルール、ごみ箱を置くというルール、利用者はごみを持ち帰るというルール、利用者に特定の場所ではこういうことをしてくださいというルール、それを誰がどうチェックするのかというルールで、綺麗な公園という環境になります。
つまり、ルールが整っていれば、その環境は理想の環境へとつながるわけです。逆に、ルールが設定していなければ、公園にゴルフ場を設置してしまう人もいるかもしれません。それが人のためになると考える人もいるからです。
先ほどの「存在意義」の例に照らし合わせてみれば、何をもって「存在意義」が認められるのかが正しく定義されていれば、誤解は生じえないのです。識学ではこれを「役割定義表」「正しい定例会議進行」で管理しています。
存在意義を定義するためには「何を求めるか」が大切
リーダーの存在意義についてご説明をさせていただくと、次にリーダーは「ではどうすれば」の思考に行きがちです。ですが、私たちは、「何を求めるか」を作る作業をお伝えします。なぜなら「ではどうすれば?」は方法であり、「何を求めるか」と連動していないと、部下にとって「何のためにその方法を行うか」という疑念に繋がるからです。
私たちコンサルタントは、この疑念がロスタイムにつながると考えています。部下がそのたびに仕事に納得する必要があり、行動までに時間を要してしまうからです。
これを解決するのが「役割定義表」です。 役割定義表では、チームが勝つためにどういう仕事をいつまでにどの状態にするかを書き出します。
▼役割定義表のアウトプット例
【チームの目標】※AさんBさん、Cさん、Dさん、Eさんの5名を想定
・売上10億円を達成する
【Aさんの目標】
・新規3億円の取り組み達成
・解約率を3%下げる
・既存顧客へのアップセル1億円
書き出していくと数が増えがちですが、最終的に設定する項目は5つ以内に搾り込むことがポイントです。書き出した目標のうち、センターピンを部下の目標に設定しましょう。
どうしても数が増えてしまう場合には2つのテクニックを活用してみましょう。
1つは優先順位で決めることです。これは数ある中で何から出来ていれば次のことが打ち込めるかと見て設定するやり方です。
2つ目はポイント化です。数が多いがすべてにチャレンジしてもらいたい時には、各項目にポイント設定して出来たら加点というルールを敷きポイント合計を目標設定するのもよいでしょう。ポイント化を用いることで役割定義の項目の表現が「設定されたタスクのポイント目標の達成」となり数が多い項目が整理できます。
役割定義表が設定できたら、「嫌われたくない」という存在意義を優先してしまっているという思考を排除していきます。このために必要になるのが「正しい定例会議進行」です。定例会議進行のためには、報告書のフォーマットを作成する必要があります。
▼報告書のフォーマットに必要な事項
・進捗目標
・結果
・未達だった理由
・行動変化(どのように未達を埋めるか)
なぜ、この項目が必要かというと部下のチャレンジには部下の管理、サポートが必要になるからです。
この報告書と定例会議がない状態だとリーダーの方は、部下がどうなっているかの確認を気が付いたときに行う行動になります。顕著な例は、気になったときに「〇〇どうなっているんだ?」という声掛けから始まり、アドバイス/示唆や指示を与える場合です。
一見、部下の管理が正しくできているように見えますが、部下はどういう思考状態になるでしょうか。
進捗目標を達成するために考えたやり方を変えさせられたことにより、「上司の言われたことを行っているだけ」の思考になります。つまり、自責でなく他責思考です。そのため終わられた時は「自分で出来た」でなく「言われた通りに行っただけ」、終われなかった時は「上司の言われたとおりにやったが出来なかったので上司の指示を待とう」の思考になる可能性が高くなり、「どうやって改善しようかな」の思考は発生しません。この部下の思考状態の場合、リーダーは部下に求めていることを遂行してもらうために「気持ち良く仕事してもらうために嫌われないような手立てを行おう」というリーダーの思考が発生することになります。
逆に報告書と定例会議の運用が出来ていると、部下は不足と行動変化を考え上司に報告し、上司は部下の不足に対する行動変化に対してのみ必要な指示/ルール設定や権限の付与をすることになり部下もこれからやるべきことの精度を上げられる環境となります。
周囲から嫌われたくないという思考は、部下もダメにする
リーダーの周囲から嫌われたくないという思考は、チームを勝たせられなくなるだけではなく、部下の成長機会も奪うことになりかねません。リーダーは組織に勤めている限りは、組織を勝たせるための思考をすべきです。私利私欲ではなく、会社にとって有益な存在である必要があります。
嫌われたくないという思考は誰にでもありますが、それは必ずしも会社という組織内で実現を目指さなくてもよいものです。ほかのコミュニティで実現させましょう。
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