文/鳥居美砂
お正月といえば雑煮。日本各地には、その土地土地の食文化を映す雑煮があります。
雑煮については、『サライ』本誌でも、これまで幾度か特集を組んで紹介してきました。北海道から九州まで、ハゼやアナゴ、アゴ(トビウオ)などのだしに特徴があるもの、胡桃だれやきな粉をつけて食べるなど、取材先で多彩な雑煮に出会いました。
さて、ここ沖縄ではどうでしょうか? じつは、沖縄には雑煮を食べる習慣がありません。その代わり、といっていいのかわかりませんが、正月料理には汁物が欠かせません。
豚のアバラ骨を使った「ソーキ骨のお汁」、同じく豚肉の内臓をきれいに処理してから具に用いる「中身の吸物」、そして白味噌仕立ての「イナムドゥチ」。この3つの汁物の中から、どれかひとつを作ります。
さらに、お正月は1月1日だけとは限りません。最近は、ほとんどの家庭が全国と同じ暦通りに正月を祝います。ところが、糸満市をはじめとする漁業が盛んな地区では、旧暦が主流です。
また、お年寄りのいる家庭では、新暦と旧暦の2回とも正月料理を作るところもあります。スーパーも、年末に正月用品の売り出しをしたかと思えば、ちゃんと「旧正月特売」と銘打ったチラシを用意します。
今年の旧正月は、1月28日です。本来の沖縄らしく、旧正月に合わせて正月の汁物を紹介しましょう。
先ほどの3つの汁物の中から、今回は「イナムドゥチ」を選んでみました。作り方は本サイトの指南役、松本料理学院、学院長の松本嘉代子さんに教わります。
「『イナムドゥチ』とは、猪もどきという意味です。沖縄には猪も生息しているので、昔は猪肉だったかもしれませんが、代わりに豚肉を使います。具だくさんで、コクのある味噌味の汁物です。薄くすると、単なる味噌汁になってしまいますので気をつけてくださいね」
【イナムドゥチの材料(2〜3人分)】
■だし:3カップ
■豚三枚肉(バラ肉):100g
■干し椎茸:2枚
■こんにゃく:100g
■厚揚げ:60g
■カステラかまぼこ:50g
■白味噌:65g
【作り方】
(1)鍋に豚三枚肉と水を入れて強火で煮立て、アクを取ったら中火にして柔らかくなるまで(50分ほど)茹でてから。短冊に切る。(時間があるときに塊を茹でておいて、小分けにして冷凍しておくとよい)
(2)干し椎茸は水に戻し、石づきを取って短冊に切る。
(3)こんにゃくは5センチ長さの短冊に切り、水のうちから茹でる。
(4)厚揚げは熱湯に入れて油抜きし、5センチ長さの短冊に切る。
(5)カステラかまぼこも5センチ長さの短冊に切る。
(6)鍋に分量のだしを入れて火にかけ、(1)と(2)を入れて煮立て、その後に(3)(4)を加えて再び煮立て、最後に(5)を入れる。
(7)白味噌を溶かし入れて仕上げる。
「だしは、鰹だしと豚だしを3:2の割合で使います。厚揚げの代わりに、油揚げでも構いません。また、『カステラかまぼこ』は沖縄独自の卵を使ったかまぼこですが、手に入らないときは白かまぼこを使ってください。
味噌の量は、その種類によって加減してくださいね。沖縄には『イナムドゥチ』専用の白味噌がありますので、それを使うのがベストです。沖縄以外の白味噌は甘みが強すぎて、コシが弱い傾向があります。そんなときは、中辛くらいの味噌を少し混ぜて使うといいでしょう」(松本先生)
鰹と豚のだしに豚肉や干し椎茸、さらに厚揚げやかまぼこからも旨味が出てきます。これらの味が渾然一体となって溶け出して、最後に白味噌が味をまとめます。
濃厚で、旨味たっぷりの汁物。確かに、味噌汁というより、少しとろみのある汁はポタージュに近い味わいなのかもしれません。
ちなみに、豚三枚肉を使った醤油味の汁物で「鹿ムドゥチ」(鹿もどき)という料理もあるので、またの機会に紹介しますね。
旧暦の正月前には、牧志公設市場も再び賑やかになります。年の瀬という気分ではないけれども、どこか高揚感があります。
正月が2回あるというのも、なかなかにいいものです。
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。