静岡県伊豆市北部に位置する修善寺温泉は約1200年の歴史を誇る由緒ある温泉地です。
温泉のいわれは、温泉街を流れる桂川に、弘法大師が手にしていた仏具の独鈷(とっこ)で川の中の岩を打ちつけたところ、温泉が湧き出たとされています。
温泉の名前の由来となった修禅寺を中心に温泉街が形成され、足湯の「とっこの湯」や「河原湯」、竹林の小径、北条政子が建立した経堂の「指月殿」などの見どころが揃います。
また修善寺温泉は多くの文豪墨客にも深い関わりがあり、文学碑めぐりも楽しめます。
岡本綺堂の戯曲で、傑作といわれるのが『修繕寺物語』。修善寺に住む面作師の物語です。
夏目漱石は病気療養のために修善寺温泉を訪れますが、病状が悪化し危篤状態に。のちに回復しますが、この「修善寺大患」が作品に影響を与えたといいます。
また芥川龍之介、尾崎紅葉、島崎藤村、泉鏡花、川端康成、井伏鱒二らがこの地を愛し、ゆかりの碑が立ちます。
温泉宿は桂川沿いに約20軒。冷え症や疲労回復に効能がある弱アルカリ性単純温泉が今も昔も多くの人々を魅了しています。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。