文/鈴木拓也
統計によれば、飼い猫の約半数は肥満かその一歩手前。太ったままにしておけば、「病気にかかるリスクも跳ね上がります」と注意を促すのは、泉南動物病院の横井愼一院長だ。
横井院長は著書の『専門医に学ぶ 長生き猫ダイエット』で、肥満が様々な病気の元凶となりうることを解説している。それには、変形性関節症、糖尿病、膵炎、尿路結石などがあり、命にかかわる病気もある。さらに、手術や投薬など飼い主の経済的・心理的負担も大きく、「たかが肥満」と甘く見てはいけないという。
もし飼い猫が太り気味で、まだ病気の兆候が見られないなら、やるべきことは1つ―ダイエットだ。その手引きが、本書では詳しく書かれている。
■ダイエットはれっきとした医療行為
結果を早く出そうと、肥満猫を絶食させるのは「絶対にやめてください」と、横井院長は警告する。
そもそも、猫のダイエットは「れっきとした医療行為」。つまり、獣医の監督・指導のもと、適切なキャットフードを適切な分量だけ与えないと、肝リピドーシスのような病気にかかる恐れがあるからだ。
だから、まずは動物病院へ。獣医は、猫の肥満状況や現在の食事・運動量などを確認し、使用するキャットフードやその分量を決める。生活改善のアドバイスもあるのでしっかりメモし、次回来院時の目標体重を設定してもらう。
帰宅したら、さっそく減量開始。1週間に一度、体重を測って記録しておく、というのがダイエットの流れとなる。
ダイエット期間の目安は半年間。焦らず少しずつ体重を減らしてゆくのが、大事だという。
■基本は減量用療養食の使用
ダイエット中に猫に与えるキャットフードは、獣医が指定する減量用療養食が基本になる。
これは、食物繊維で嵩増しして単位重量あたりのエネルギー量は総合栄養食より減らし、一方でタンパク質、ミネラル、ビタミンを補っているのが特色。
減量中だからと分量自体は減らさずに済み、猫の空腹感を防げるメリットがある。
一般的なキャットフードより割高ではあるが、代わりに通常のエサを減らして与えるだけでは、筋肉も落ちてしまう。減量用療養食は、健康的なダイエットの要と覚えておきたい。
■おやつは食事全体の1割までならOK
おやつは1日に必要なエネルギー量のうち、2割にとどめるのが基準だが、これは健康な猫の話。
横井院長は、肥満療養中の猫については、「無理におやつをやめる必要はありません」としつつも、上限1割に抑えるよう推奨する。
また、種類については、ジャーキーのような乾燥させたものより、水分量も多いウェットタイプがベター。「ボリュームが出るので猫にとって食べ応えがある」というのが、その理由だ。
■運動もセットで行うのが原則
減量の基本が療養食となるのは、運動だけで余分な脂肪を減らすのは難しいからというのがある。とはいえ、サブメニュー的に運動を取り入れることを、横井院長はすすめている。
運動で見逃せないのがリフレッシュ効果です。以前のように食べられず不満をため込んでしまった時には、何よりのストレス発散となります。体質的にもやせやすくなります。減量中、飼い主が上手に運動を取り入れることで、当初想定していたよりも体重がスムーズに落ちるケースを目にすることも多く、運動の効果を実感しています。
(本書86pより)
猫の運動としては、定番の猫じゃらしといったおもちゃのほか、室内のあちこちに少量のフードを隠す「宝探し」などが紹介されている。飽きっぽい動物なので、その対策についても説明があり参考になる。
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猫がダイエットに成功すると、体型の変化もさることながら、普段の動きにキレが出て、若返ったような印象もあって、飼い主も大きな喜びを感じる。本書は、太ってしまった愛猫を、以前の姿に戻すための一助となるはずである。
【今日の愛猫の健康に良い1冊】
『専門医に学ぶ 長生き猫ダイエット』
https://komakusa-pub.shop-pro.jp/?pid=144602781
(横井愼一著、本体1,400円+税、駒草出版)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。