文/藤原邦康
強く噛んでいる自覚症状がなく、顎関節症に
かつて顎関節症だった私は「オープンバイト」(開咬)という不正咬合の問題を抱えていました。私のケースでは、上下の奥歯を合わせても右側の一部で上下の歯が当たっていない状態でした。この状態では、食塊をいくら噛んでも、
もともと動物にとって適切に噛むことは本能的な行動です。一定のリズムで適度に噛めばリラックス効果もあります。ところが、私のようなケースでは必要以上に強く噛むことで快楽物質がβ(ベータ)エンドルフィンという脳に分泌され、間違った心地よさを感じていたのだと推測します。一種の中毒ですね。アゴがこわばり疲れや痛みを感じることもしばしば…。首や頭に慢性的な凝りを生じていました。噛むことは交感神経優位になるため早食いで、食後の歯磨きも丁寧にできていなかったように思います。この結果、歯石も溜りやすくなっていました。歯科でクリーニングしてもらう際には口の開き加減が十分ではなく、歯科泣かせだったのではないかと思います。後に歯科医師から指摘されてわかったのですが、噛みすぎてエナメル質が削れて象牙質が露出してへこみ、クレーターのような小さなくぼみが奥歯にできていました。
「歯」という体の重要パーツに問題があることを自覚できなかった
私の場合、さらに困ったことに「クロスバイト」(交叉咬合)というまた別のタイプの不正咬合がありました。通常、上の歯が下の歯の上に重なるはずですが、クロスバイトでは逆に重なります。私のケースでは「犬歯誘導」という咀嚼に重要な機能を持つ糸切り歯に下の歯が上の歯にかぶさっていた状態でした。この結果、正しい咀嚼の誘導ができず、雑な食べ方になってしまっていました。振り返ると、ちゃんと味わって食すことができていなかったように思います。特に問題を感じることもなく「知らぬが仏」でしたが、人生の半分近くになるまで「歯」という体の重要パーツに問題があることに自覚できなかったのは幸せだといえませんね。
余談ですが、私のようなアラフィフ世代では成長期の歯列矯正はまだ一般的ではなく、アイドルは「八重歯がチャーミング」などといわれた時代…。私も子供の頃は「歯医者さんは虫歯を治してくれる人」という認識で、御多分に洩れず歯並びについては無関心でした。アメリカ留学時代に同級生の歯の白さと歯並びの綺麗さから口元に
私はその後、噛み合わせ専門の歯科医師のもと、適切な診断と歯科治療を受けることができました。その後は、食の好みが変わり、むやみに固い食べ物を欲することもなくなりました。アゴ周りの疲れも頭の凝りも嘘のようになくなりました。現在は、ゆっくり丁寧に噛むことができる喜びを満喫しています。歯や噛み合わせがいかに健康に重要な役割を果たしているか改めて日々実感します。
歯に限ったことではありませんが、自動車や家電製品と異なり、人の体には個体差が大きく、体の個性に応じた仕様書や取扱説明書はありませんね。私も50歳近くになっておぼろげに自分の体の仕様書が見えてきましたが、病歴や健診結果などのログから自分の頭の中に仕様書を作成していく必要があるのかもしれない、と自分の経験や職務を通して考察します。
歯とアゴを含めた筋骨格系の相関性については非常に奥深くまだまだ研究の余地があります。痛みや不具合などに関する探求に終わりはなく、私も日々の施術を通じて学習を続けている最中です。なお、歯科と骨格の関連性について「顎学」(ガクガク)というfaceboookコミュニティで意見交換をしています。ご興味ある歯科医師の先生はご一報ください。info@seigaku.org
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。