文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)
ウィンタースポーツのメッカとして知られるオーストリアでは、モータースポーツの人気も非常に高い。F1は、スキー競技に次いで人気が高く、日曜日には多くの人が、かたずを飲んでスタートを見守っている。
そんなオーストリアは、F1レーシングチームを所有するエナジードリンクメーカー、レッドブル社のお膝元でもある。オーストリアグランプリの開催地は、緑に抱かれた美しいサーキット、その名も「レッドブル・リンク」だ。
●シュピールベルクの歴史と栄光
オーストリアの首都ウィーンから、車で南へ2時間、シュタイヤーマルク州の緑が美しい丘陵地帯シュピールベルクに、そのサーキットはある。
1970年から1987年まではエステルライヒリンク、1997年から2003年の間はA1リンクという名称で知られた有名なF1サーキットだったが、その後荒廃していたのをレッドブル社が買収し、2014年からは再びF1オーストリアGPの会場となっている。カーレースだけでなく、日本人パイロットが初優勝を果たした「レッドブル・エアレース・ワールドシリーズ」や、オフロードのレースなど、さまざまなモータースポーツの舞台としても知られている。
このサーキットの一番の特徴は、息をのむような美しい自然の風景だ。緑の丘陵地帯を縫うように作られたコースは、周りの景観とも不思議に調和している。
●見学自由のサーキット
レッドブル・リンクは、レースが行われていない時期は、ビジターとして訪問することができる。90分間のガイドツアーもあるが、ツアーに参加せず、自由に施設を見て歩くのもお勧めだ。
レッドブル・リンクの施設は、大きく4つに分けられる。ウェルカムセンター、ドライバーズエリア、コースと観客席だ。そのほとんどが、レースのない時期には自由に入場できることは、あまり知られていない。
まずは、サーキットの顔となる、ウェルカムセンターに入ってみよう。
ウェルカムセンターには受付があり、レース開催中はここが案内所になるが、それ以外の期間も、会場の地図や周辺の観光案内図などを受け取ることができる。
入って右側にはカフェ、左側にはショップがあり、レースファン垂涎のオフィシャルグッズが並んでいる。Tシャツや、レースジャケットなどの他に、お土産に最適なレッドブルレーシングチームの公式グッズが豊富だ。
ウェルカムセンターには、往年のレーシングカーやバイク、オフロードカーや飛行機などが展示され、モータースポーツ博物館のようになっている。F1レースのシュミレーションゲームもあり、存分にモータースポーツの醍醐味を味わうことができる。
ウェルカムセンターから階段を降りると、歴戦のレーサーたちのウォーク・オブ・フェイムがある。ミヒャエル・シューマッハ、ニキ・ラウダなどの雄姿を眺めながら地下道を通ると、サーキット内の別の建物に出る。
ここには、VIPラウンジ、ビストロ、メディアセンターとレースコントロールが入っている。テラスからはサーキットが一望でき、眼下にはボックスストップのための施設がある。実際のレース時は、ここはVIPとメディア、スタッフでにぎわい、独特の雰囲気が立ち込めるが、平時は気軽に絶景を眺めることができる。スポーツでありながら、VIP的な快適さも楽しむことができる贅沢な施設だ。
レースのない日は、無人の観客席の一部に入り、有名なサーキットを一望することができる。ウェルカムセンターを出て右へ曲がり、トンネルの手前の左の丘を登ったところに、Tribüne(階段型の観客席)という表示がある。
運が良ければ、練習風景を見ることもできる。オーストリア国旗の赤白赤のストライプを眼下に、バリバリというモーターの轟音を聞いていると、臨場感たっぷりだ。この日は、F4のトレーニングを見ることができた。
緑の美しさで有名なシュタイヤーマルクの良さを生かした、自然と山とコースと建物がうまく融合している。
観客席を堪能したら、車で先ほどのトンネルを通ってみよう。コース内の一般道を通るという、貴重な体験ができる。
実はこのコースは、レーシングカー用のサーキットだけでなく、さまざまな種類のモータースポーツのコースが整備されている。オフロードバイクコース、4WDテストコース、ドライビングセンター、ゴーカートコースなどがある。事前に申し込めば、BMWやポルシェのレースカーに乗ってサーキットを走ることもできるし、ランドローヴァーやオフロードバギー、KTMのオフロードバイクなどをその場で借りて、コースを走らせることも可能だ。
なんと7歳以上の子供向けに、ゴーカートコースで本格的なレース体験も提供されている。まさに子供から大人まで、モータースポーツの天国だ。
このまま道なりに行くと、レッドブル・リンクのオフィシャルホテルに到着する。ここには、VIPさながらの眺めが楽しめる、テラスレストランがある。
ここは、レース期間中にVIPの宿泊客が優雅な観戦を楽しむテラスだが、平時は誰でも食事に入ることができる。オーストリア料理をモダンに改良した創作料理はとても美味しく、絶景を眺めながら、気持ちの良いランチタイムを過ごすことができる。取材の日には、テラスを区切ってのレース関連の撮影や、関係者の打ち合わせも行われていた。
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緑に囲まれた、オーストリア、シュピールベルクのレッドブル・リンク。テクノロジーのせめぎ合いと雄大な自然の調和という、相反する二つの顔を持つのも、このサーキットの魅力だ。
レース開催時の賑わいとは打って変わった、普段のサーキットの姿をゆったりと楽しむのも、モータースポーツファンとしては、ぜいたくな時間なのかもしれない。
文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)会員。