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旅行

アメリカ・テネシー州の蒸留所ツアーで知る、「ジャック・ダニエル」を形づくる5つの要素とは?

文・写真/大井美紗子(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)

ジャック・ダニエル蒸留所

アメリカンウイスキーの代表格である「ジャック・ダニエル」。1866年にアメリカ初の認可蒸留所として操業開始して以来、圧倒的な人気と歴史を誇るウイスキーブランドである。

ジャック・ダニエルは、他ブランドのものよりコクが深く、香りが強いといわれている。他者と差をつける理由は、一体何か? テネシー州リンチバーグの蒸留所で見学ツアーに参加し、ジャック・ダニエルをジャック・ダニエルたらしめる要素を探ってみた。

火と水がおいしい酒を造る

ジャック・ダニエルの蒸留所は、山に抱かれるように建っている。緑が豊かで、敷地の周りには透き通った小川が流れる。

のせせらぎに耳を傾けていると、心が洗われるよう

川のせせらぎに耳を傾けていると、心が洗われるよう

蒸留所の敷地は広大だ。山の中腹に建てられているので、傾斜もきつい。ツアー客はまずバスに乗って坂を上り、蒸留所内を見学しながら下り坂を歩いて戻ってくることになる。

のせせらぎに耳を傾けていると、心が洗われるよう

ツアー用のバス。乗車時間は5分弱

バスを降りたら徒歩移動。木漏れ日の中を歩くのは気持ちがいい

バスを降りたら徒歩移動。木漏れ日の中を歩くのは気持ちがいい

【ジャック・ダニエルを作るもの1】サトウカエデの木炭によるメローイング

ツアー客が最初に目にするのは、巨大な窯である。ジャック・ダニエル特有の製法、「チャコール・メローイング」に使用する木炭をここで作るのだ。

燃やすのは、メープルシロップが採れる木でもあるサトウカエデ

燃やすのは、メープルシロップが採れる木でもあるサトウカエデ

チャコール・メローイングとは、木炭(チャコール)に一滴一滴原酒を垂らしてろ過する製法である。時間をかけてろ過することで、滑らかな口当たりが生まれるのだという。昔はテネシー州中どこの蒸留所でも行っていたが、現在は経済的な理由からほとんど省かれてしまっている。昔ながらのこの製法を守り続けているのは、ジャック・ダニエルくらいだそうだ。

これだけの木々がただ炭にするために切られていると思うと、不思議な気分

これだけの木々がただ炭にするために切られていると思うと、不思議な気分

【ジャック・ダニエルを作るもの2】ミネラル豊富・鉄分なしの湧き水

続いての見どころは、洞窟だ。ここに湧き出る水こそ、創業者ジャック・ダニエルがこの地に蒸留所を築いた理由なのだという。

夏でもひんやりと冷たい洞窟

夏でもひんやりと冷たい洞窟

湧き水は「ライムストーン・ウォーター」と呼ばれている。石灰(ライムストーン)の層でろ過され、ウイスキーの風味を増すカルシウムやカリウムなどのミネラルが豊富だ。一方で、風味を損なう鉄分は含まれていない。まろやかなウイスキーを作るうえで、この水は欠かせない原料なのだという。

門外不出の蒸留室・貯蔵庫で、ジャック・ダニエルの香りに酔う

次は、仕込・発酵・蒸留を行うスティル・ハウス(蒸留室)へ。この内部は撮影禁止なので、写真がお見せできない。ただし、ここが最大の見どころとも言える。原料のとうもろこし・大麦麦芽(モルト)・ライ麦が発酵し、ぶくぶくと泡立つさまと、前述した「チャコール・メローイング」の過程を間近に見られるからだ。鼻に突き刺さるような、発酵中の鋭い香りも堪能することができる。

もくもくと煙をあげるスティル・ハウス

もくもくと煙をあげるスティル・ハウス

原料のコーン・大麦・ライ麦

原料のコーン・大麦・ライ麦

【ジャック・ダニエルを作るもの3】内部を焦がしたオーク樽

蒸留室の次は、樽づくりへ。これもジャック・ダニエルの味を左右する大切な工程だ。
オーク材で作られた樽の内側を焦がし、そこで原酒を寝かせることで、香ばしい風味と色味をつける。蒸留・ろ過したての原酒は透明だが、焦がした樽で熟成させることであの美しい琥珀色になるのだ。

左のような新品の樽を焦がし、右のようにしてから原酒を詰める

左のような新品の樽を焦がし、右のようにしてから原酒を詰める

樽は1回限りで使い切る。使い終わった後の樽をばらして作った椅子が、蒸留所のあちこちに置かれている

樽は1回限りで使い切る。使い終わった後の樽をばらして作った椅子が、蒸留所のあちこちに置かれている

【ジャック・ダニエルを作るもの4】職人による丁寧なテイスティング

原酒を詰め終わった樽は、バレル・ハウス(貯蔵庫)に収められる。貯蔵庫も残念ながら撮影禁止だ。熟成にかかる時間は4年から7年。開きがあるのは、天候など様々な要素によって熟成の度合いが変わるからだ。ひと樽ずつ職人が味を確かめて、出荷していいかどうかを判断している。

貯蔵庫では、「天使の分け前」を堪能することもできる。ウイスキーは熟成の過程で徐々に蒸発して最終的には量がずいぶん減ってしまうのだが、減った分は「天使が味見をした」と言われているのだ。貯蔵庫に漂っているウイスキーの香りは、その証。深く息を吸って堪能しよう。天使たちは、香りくらい残しておいてくれよ、と口をとがらせるかもしれないが。

【ジャック・ダニエルを作るもの5】豪快な創業者ジャック・ダニエル

ここまで手間のかかるウイスキー作りを確立したジャック・ダニエルという人は、どんな人物だったのだろうか。

金庫を蹴飛ばして死んだジャックおじさん

ジャック・ダニエルの等身像

ジャック・ダニエルの等身像

生まれは1850年頃で、正確な生年月日はわかっていない。10人兄弟の末っ子として生まれたジャックはすぐに両親を亡くし、牧師ダン・コールのもとに引き取られた。コール牧師と彼の家に仕えていた黒人奴隷ネイサン・ニアレスト・グリーンに酒造りを習い、1866年にアメリカ初の蒸留所をスタートさせた。

ニアレストは、主任酒造家として招かれた。南北戦争前後、黒人への差別がまかり通っていた南部では異例のことだった。ジャックはニアレストの肌の色より、酒造家としての腕を重視したのである。

リンチバーグの町に多額の寄付をし、町の人々から「ジャックおじさん」と慕われていたジャック。色男でもあり、ガールフレンドが7人もいたそうだ。ただ、後継ぎを成すことなくこの世を去った。

ジャックが亡くなったのは1906年。ある朝、いつもより早く出社したジャックは会社の金庫を開けようとした。しかし、暗証番号がわからない。経理係に聞けばわかったかもしれないが、早朝でまだ誰も出社していない。カッとなったジャックは金庫を蹴飛ばし、つま先を負傷。その傷がもとで命を落としたのだそうだ。本人には悪いが、ずいぶんな死因である。このエピソードだけで、ジャックの豪快な人柄がわかるようだ。

ジャックの命を奪った金庫と、本人の写真(右上)

ジャックの命を奪った金庫と、本人の写真(右上)

常識にとらわれず、何事にも激しい性格をしていたからこそ、ジャックは歴史に残るウイスキーを作り上げることができた……のかもしれない。

ウイスキーの試飲もできる見学ツアー

蒸留所のツアーは、ほぼ年中無休、毎日朝9時から16時半の間に複数回開催されている(サンクスギビング、クリスマスイブ・クリスマス当日、元旦、イースターの日曜日は休み)。
ツアーは計5種類あり、今回ご紹介したのは所要時間1時間10分、大人ひとり15ドルの「The Dry County Tour」だ。年齢制限なく参加できる。その他の4種類はツアー中にウイスキーの試飲を行うため、21歳以上でないと参加できない(子どもや赤ちゃんも同行不可)。詳細は公式サイト(https://www.jackdaniels.com/en-us/visit-distillery)をご参照いただきたい。
蒸留所は、テネシー州ナッシュビル国際空港から車で約1時間半。丘を越え、牧場を横目に走る道中も楽しい。ウイスキー好きの方もそうでない方も、きっと満足できるツアーである。

【蒸留所住所】
133 Lynchburg Hwy, Lynchburg, TN 37352

文・写真/大井美紗子(アメリカ在住ライター)
アメリカ南部・アラバマ州在住。日本の出版社で単行本の編集者を務めた後、2015年渡米。ライティングのほかに翻訳も手掛ける。日英翻訳書に『京都の仏像なぞり描き』(PHP研究所)など。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。

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