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「10数えてズドン!」は大間違い。アメリカのリアルな「決闘」ルールとは?

文・写真/大井美紗子(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)

アメリカ映画――特に南北戦争から西部開拓時代頃が舞台のものを見ていると、たびたび「決闘」シーンが登場する。荒野に荒くれ物の男が2人、互いに背を向けて10歩ずつ進み、振り返ってズドン! とやるあれだ。

しかしこの決闘シーン、歴史的には大間違いだという。一体どこがどう違うというのか。当時の様子を忠実に再現するツアーがあるというので、参加してみた。

決闘シーンに居合わせるのは4人

まず、「荒野に2人」という描写が間違っている。場所が荒野か否かはどうでもいいのだが、決闘シーンには最低でも4人いなければならない。決闘する者2人と、その仲介人2人の計4人だ。

当時の服装を着た、右端と左端のスタッフ2人が決闘者役。真ん中にいる仲介人役2人が現代的なTシャツ・短パン姿なのは、ツアーのお客さんが特別参加しているため

当時の服装を着た、右端と左端のスタッフ2人が決闘者役。真ん中にいる仲介人役2人が現代的なTシャツ・短パン姿なのは、ツアーのお客さんが特別参加しているため

決闘する者が「おい、これからお前と決闘だ!」と直談判することは許されない。事前に仲介人を選び、仲介人を通して相手に決闘を申し込むことになっていた。仲介人は、依頼人がお互い同意のうえで決闘に臨むことを確認し、決闘の方法などを決定する。当人たちは頭に血が上っていて冷静に物事を決められないから、というのが理由である。

上流階級が名誉のために闘う

決闘は同じ身分の者同士、特に高貴な身分の者同士でしか行われていなかった。映画では保安官vs賞金稼ぎなどの決闘シーンも見られるが、本来は上流階級の人々が名誉のために行うものだった。

たとえばアメリカで大ヒットしたミュージカル「ハミルトン」にも描かれている、米国史上もっとも有名といっても過言ではない決闘――アメリカ建国の父アレクサンダー・ハミルトンと、その政敵アーロン・バーの果し合いは、互いの政治的名誉をかけて行われた(勝利したのはバーだったが、後年名を残し、10ドル札の肖像にもなるほど知られているのはハミルトンの方である。皮肉なことに)。

その3年前には、ハミルトンの息子フィリップも父の名誉のために決闘を行い、敗れて死去している。

20ドル札の肖像になっている第7代アメリカ大統領のアンドリュー・ジャクソンは、決闘好きだったことで有名だ。妻のレイチェル夫人を侮辱されるとカッとなり、相手に決闘を申し込んだという。妻の名誉のために闘っていたというわけだ。

生涯仲良く連れ添ったといわれるアンドリュー・ジャクソン大統領とレイチェル夫人

生涯仲良く連れ添ったといわれるアンドリュー・ジャクソン大統領とレイチェル夫人

レイチェル夫人は気さくで飾り気がなく、多くの人に好かれていたという。前夫から奪い取る形でレイチェル夫人と結婚したジャクソン大統領は、妻を侮辱したチャールズ・ディキンソンを決闘で負かして死亡させた

レイチェル夫人は気さくで飾り気がなく、多くの人に好かれていたという。前夫から奪い取る形でレイチェル夫人と結婚したジャクソン大統領は、妻を侮辱したチャールズ・ディキンソンを決闘で負かして死亡させた

10歩ほどの至近距離で打ち合い

10歩ほどの至近距離で打ち合い

また決闘は、映画と比べると驚いてしまうくらいの至近距離内で行われていた。具体的には、お互い5歩進んだくらいの距離である。

なぜなら当時の銃はそこまで飛距離がなく、命中率も高くなかったからだ。映画のようにお互い10歩も離れた位置で打ったら、弾がどこに飛んでいくかわからず危なくて仕方がない。

死亡率は1割ほど

死亡率は1割ほど

そして決闘には、性能のいい回転式(リボルバー)ではなく、あえて単発式のシンプルな銃が使われていた。回転式よりも威力が低く、そこまで殺傷力はなかったと言われている。

ただし仲介人たちは、威力の高い銃を持っていた。決着がつかなかった場合は仲介人が仕留めるから――というわけではなく、決闘者たちがカッとなって無茶苦茶な行動に移らないようにするための牽制用だったという。

決闘での死亡率は意外にも低く、1割程度だったそうだ。

後世に残るのは、前述したハミルトン対バー、アンドリュー・ジャクソン対チャールズ・ディキンソンのような派手な逸話ばかりなので、私たちはどうしても「決闘=負ければ死」というイメージを持ってしまう。確かに当人たちが命を賭けて決闘に臨んでいたことは間違いないが、死に至ることはそうそうなかったのである。

アンドリュー・ジャクソン大統領が晩年暮らした「ザ・ハーミテージ」

ザ・ハーミテージ

さて、この決闘再現ツアーだが、前述したアンドリュー・ジャクソン大統領が晩年を過ごした邸宅「ザ・ハーミテージ」(https://thehermitage.com/)にて参加することができる。

19世紀当時の服を着たスタッフが案内してくれる。館内は撮影禁止

19世紀当時の服を着たスタッフが案内してくれる。館内は撮影禁止

邸宅の裏にある敷地では、黒人奴隷たちが暮らしていた。ジャクソンは厳しい黒人奴隷弾圧を行ったことでも知られているが、晩年は150人の黒人たちを1000エーカーもの敷地に住まわせ、仕事を提供していたという

邸宅の裏にある敷地では、黒人奴隷たちが暮らしていた。ジャクソンは厳しい黒人奴隷弾圧を行ったことでも知られているが、晩年は150人の黒人たちを1000エーカーもの敷地に住まわせ、仕事を提供していたという

19世紀の面影を忠実に残す邸宅は、写真でご紹介できないのが残念なくらい興味深い。きらびやかなゲストルームや寝室には、ジャクソンが実際に使っていたパイプなどの調度品が飾られている。一転、奴隷たちが働いていたキッチンは薄暗くてほこり臭く、当時の身分差について考えさせられる。

別館「アンドリュー・ジャクソン博物館」では、ジャクソン大統領の生い立ちや南北戦争での活躍、政治活動について知ることができる。

ジャクソンは庶民出身として初めて大統領になった人物だ。圧倒的な大衆人気と強引な政策で知られ、「200年前のトランプ」と言われている。実際、トランプ大統領も大ファンらしい。ホワイトハウスにジャクソンの肖像画が飾られているし、オバマ大統領時代、20ドル札の肖像をジャクソンから女性活動家のハリエット・タブマンに変更しようという案があったが、トランプ政権下の今は保留になっている。

貧しいアイルランド移民の家に育ち、独学で弁護士に。ニューオリンズ戦争で大勝利を収め、たちまち大衆の人気者になったアンドリュー・ジャクソン。ニックネームは「オールド・ヒッコリー」。大統領にニックネームが付けられたのも、史上初であった

貧しいアイルランド移民の家に育ち、独学で弁護士に。ニューオリンズ戦争で大勝利を収め、たちまち大衆の人気者になったアンドリュー・ジャクソン。ニックネームは「オールド・ヒッコリー」。大統領にニックネームが付けられたのも、史上初であった

逸話に事欠かないアンドリュー・ジャクソンの生涯は、実に波乱万丈。ぜひ足を運んで詳細を知っていただきたい。

「ザ・ハーミテージ」はナッシュビル国際空港から車で20分ほど。無料駐車場も完備されているので、レンタカーを借りればアクセスしやすい。

肝心の「決闘再現ツアー」は、1回30分。毎週木曜~日曜、10時から15時の間に数回開催されている(2018年11月現在)。

【参考】
「ザ・ハーミテージ」オフィシャルサイト:https://thehermitage.com/

文・写真/大井美紗子(アメリカ在住ライター)
アメリカ南部・アラバマ州在住。日本の出版社で単行本の編集者を務めた後、2015年渡米。ライティングのほかに翻訳も務める。日英翻訳書に『京都の仏像なぞり描き』(PHP研究所)など。海外書き人クラブ所属(http://www.kaigaikakibito.com/)。

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