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寺島靖国氏が語るジャズ7箇条|『JAZZ遺言状』

文/印南敦史

JAZZ遺言状

サライ世代の音楽ファン、とりわけジャズが好きな人であるなら、寺島靖国氏はなにかと気になる存在であるだろう。惜しまれつつ今年の 2018年2月28日に営業を終了した吉祥寺のジャズ喫茶「メグ」の店主であり、ジャズやオーディオに関する多くの評論、エッセイを残してきた人物。

『JAZZ遺言状』(寺島靖国著、DU BOOKS)は、長年に渡ってジャズとオーディオを愛し、それらの“現在進行形”としての動きから目を話すことがなかった氏による新刊である。

『Jazz Japan』誌の連載「我が愛しのジャズ・アルバム」をまとめたものだが、その根底にはひとつの思いが絡んでいる。80歳になり、「いつくたばってもおかしくない」からこそ、ジャズについて遺言を残しておくのも悪くないと思ったというのだ。

そこで本書ではまず、氏が考える「ジャズ7箇条」が明らかにされる。

(1)ジャズは自己中心主義で行こう。自分の耳で聞いてよければそれでいい。
(2)ジャズは「音色」で味わおう。
(3)名盤だけではない。商品こそジャズの醍醐味である。
(4)まずは良い楽器ありき。演奏(アドリブ、インプロヴィゼーション)至上主義ではつまらない。味気ない。
(5)ジャズに疲れたら女性ヴォーカルとピアノ・トリオでリラックスしよう。
(6)ジャズはファッションである。服装やジャケットのかっこいいものを聴こう。
(7)新譜をどん欲に聴いて、心身をリフレッシュさせよう。
(本書「まえがき JAZZ遺言状 これからJAZZを聴く人、JAZZを聴いてきた同志たちへ」より引用)

これら7つについての解説がなされているため、まえがきはやや長めである。だが名言、名文がどんどん飛び出すので長さを意識させず、とても読み応えがある。

たとえば強烈に納得させられたことのひとつが、「音色」についての考え方。それは、ジャッキー・マクリーンにインタビューしたことがきっかけで確立することができたのだそうだ。

 その時、目の前で吹いてくれた「レフト・アローン」の音は「アルト・サックスの音」で、家で聴いたレコード盤からは「マクリーンの音」が出たのでした。
レコード盤が本物のマクリーンの音だ。私は以降、再生された音を本物の音とみなすようになったのです。だから、それを音色と称します。(本書「まえがき JAZZ遺言状 これからJAZZを聴く人、JAZZを聴いてきた同志たちへ」より引用)

オーディオの世界において、「いかに原音に近づけるか」ということは普遍的な命題である。多くのマニアが、そこに向かって四苦八苦している世界なのである。つまり「原音こそが絶対」なので、本来ならマクリーンの生演奏こそ紛うことなき「原音」となるはずだ。

ところが氏にとっては、「レコード盤が本物のマクリーンの音」。本物のマクリーンはどこかに追いやられているわけだが、ここにジャズ・マニアとしての、オーディオとしての真髄がある。いいかえれば、それが「寺島魂」だ。

マクリーンが目の前でどれだけ素晴らしい演奏をしようが、それ以前に自身を魅了した「レコードの音」、すなわち過去の体験から引き継がれたものが最優先されるということで、これこそが寺島ファンの求める本質だと感じるのである。

そこに、読者を中途半端に気遣うような迷いやブレが介入してはいけないし、迷いがないからこそ痛快なのだ。もちろん、それは本編についても同様だ。毎回、編集部から届く「お題」に沿って書かれたのだというが、それらはどれも「寺島靖国」そのもの。だから読んでいるだけで、なんとも楽しい気分になってくるのである。

そして、なによりも魅力的なのは、適度に肩の力が抜けた文章だ。たとえば「東京オリンピック~1964年」という項には、当時の情景が映し出されている。「メグ」開店の4年前、氏が父親の経営する料理屋の手伝い、中華料理屋の出前をしていた時代の話である。

 1964年にマイルスがやってきた。J.J.ジョンソンも来日した。ノーマン・シモンズ・トリオやウィントン・ケリー・トリオ、カーメン・マクレエだ。ソニー・スティットだ。ニューヨークから有名ジャズメンが消えたというフレイズがあったが、まさにこの時代もそんな塩梅だったのだろう。
勇躍、私はこれらのコンサートに駆けつけた。堪能につぐ堪能、ゲップの出るほどごちそうを食べた、と言いたいところだが、昼は出前持ち、夜は板前にこき使われて、とてもライヴ鑑賞どころではなかった。
さらに私はこの年、所帯を持ったばかりで住むところといえば長屋のようなアパート。薄い壁からは隣の夫婦ゲンカ騒ぎが聞こえてくる。そんなところでジャズなどかけられようか。たまに我慢できずにMJQなどをひやひやしながら聴いていたがいつの間にか隣近所であそこの部屋から日曜日になるといい音楽が聞こえてくるとの噂が立つようになった。(本書119ページより引用)

とてもいい文章ではないだろうか。読んでいるだけで高度経済成長期の淡い情景が頭に浮かんでくるし、こちらまで温かい気持ちになれる。そして無意識のうちに、「そういえば、しばらくJ.J.ジョンソンを聴いてなかったな。ひさしぶりに聴いてみるか」などと考えていたりする。だから、いろんな意味で楽しめる文章なのだ。

なお、各テーマごとに8枚のアルバムがセレクトされているので、聴いたことのないものをひとつずつ聴いていくという楽しみもあるだろう。

JAZZ遺言状 

寺島靖国 DU BOOKS
A5 / 352ページ / 並製
2018年8月発売

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。

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