文・写真/バレンタ愛(海外書き人クラブ/元オーストリア在住、現カナダ在住ライター)

オペラと聞くと「違う世界のもの」、「敷居も高そう」などというイメージがあるかもしれないが、ヨーロッパには各都市にオペラハウスがある。そしてヨーロッパのオペラハウスは音楽を聴く為のものだけではなく、歴史と伝統、そして文化とそこに住む人々の生活まで垣間見ることが出来る興味深い場所だ。数多くあるヨーロッパのオペラハウスの中から、今回は観光ルートとしても人気の中欧3カ国、オーストリア、ハンガリー、チェコ、そしてオーストリアの隣国スロバキアを含めた4か国に注目し、それぞれの国にあるオペラハウスを巡ってみよう。

オーストリアのオペラハウス

まずはオーストリアの首都ウィーンにあるオペラハウスからみていこう。「音楽の都」と知られるウィーンには世界三大歌劇場であるウィーン国立歌劇場をはじめ、オペラを上演する劇場が全部で4カ所ある。

ウィーン国立歌劇場」は世界中の一流音楽家が集まる場所で、ウィーンを訪れる観光客にももちろん人気だが、地元の人にとっても芸術を楽しむ社交の場として親しまれている。毎年9月から翌年6月末までのシーズン中は、ほぼ毎日のようにオペラかバレエの公演があり、様々な演目が上演されるレパートリーの多い歌劇場だ。2019年に創立150周年を迎える為、2018~2019年シーズンは記念イベントや公演が数多く予定されている。

ウィーン国立歌劇場

ウィーン国立歌劇場

シーズン中の演目と出演者は毎年4月に発表される。オンラインでのチケット販売は各公演の2か月前から始まるが、それより先にオンラインや郵送でチケット購入申し込みをすることも可能だ。世界的に有名な歌手が出演する公演や、人気の演目は入手困難な場合もあるので、なるべく早く申し込みすることをお勧めする。立見席は公演当日、公演開始の80分前から発売開始だ。

9月と4~6月はオペラ座横のHerbert-von-Karajan-Platz に設置される巨大スクリーンでオペラ座内の公演が生中継される。座席もある程度設置され、プログラムを販売する係員もいる。そこまで用意されていて無料で楽しめるのはさすがウィーンだ。他にはオペラ座内ガイドツアーも開催されていて、日程によっては日本語でのツアーもある。スクリーン上演予定やガイドツアー開催日時はオペラ座HPで発表される。ウィーンに行く事があれば、どんな形でもいいのでここだけは是非立ち寄って欲しい歌劇場だ。

ウィーン第2のオペラハウスは国立歌劇場に比べると庶民的な「Volksoper」だ。

ウィーン・フォルクスオーパー

ウィーン・フォルクスオーパー

庶民的と言ってもここはやはりウィーン。こちらの劇場も2019年に120周年と記念の年を迎える。シーズンを通してほぼ毎日公演があり、オペラやバレエだけではなくオペレッタやミュージカルまで楽しめる。国立歌劇場では上演しない演目が観られることも多く、比較的チケットも入手しやすいのが嬉しい劇場だ。

3つ目の劇場はウィーンで初めてオペラが上演された劇場、「Therter an der Wien」。

1801年に開館したこの劇場は、あのベートーベンが音楽監督を務め、劇場の部屋の一角に住み、そしてオペラ「フィデリオ」をを制作/初演した場所でもある。また交響曲5番「運命」、6番「田園」もこの劇場で初演されている。劇場のMilloeckergasse側の壁にはベートーベンの記念プレートが飾られ、モーツァルトの「魔笛」の台本を書き主演しただけではなく、この劇場を建設したエマヌエル・シカネーダーの「パパゲーノ門」もあり記念撮影ポイントになっている。

今では斬新な演出のオペラやコンサート、ダンスなどが上演されていて、他ではあまり見ることの出来ない演目も多い。設定日数は少ないが内部のガイドツアーも開催している。終演後、劇場に併設するTheatercafeに行くと、観客や出演者で賑わっている。引き続きウィーンの大人の夜が楽しめるスポットなので、オペラの余韻を楽しみに寄ってみるのもいいだろう。

そしてウィーン4つ目のオペラハウスはこちらも斬新なステージが身近に楽しめるKammer oper。こじんまりとした劇場だが、小さいならではの工夫が凝らされたステージを間近で観ることが出来るのが特徴だ。「あのオペラがこんな演出になるなんて!」と驚かされることも多いので、オペラ初心者にはお勧めしないが、色々観てからここで観るとそのすごさが分かって面白い。

ウィーンでオペラを上演する劇場は以上だが、ウィーンには他にもニューイヤーコンサートの会場として知られる「楽友協会」、年間を通して数多くのコンサートが開催される「コンサートハウス」、他にも「ブルグ劇場」、「Volksthether」、そしてミュージカル劇場が2か所ある他、観光客用に開催されるコンサートも数多くある。ウィーンに行く事があれば、事前に各劇場の公演予定をチェックして色々な劇場を回ってみて欲しい。

オーストリア国内には、ウィーン以外の都市にもオペラハウスがある。

オーストリア第2の都市ザルツブルグには、ザルツブルグ州立劇場が、グラーツとリンツにはそれぞれOper Grazリンツ州立劇場があり、オペラやオペレッタ、ダンスや演劇などを上演している。その他、世界的に有名なザルツブルグ音楽祭や、湖上にステージを設置して開催されるブレゲンツ音楽祭など、期間限定のステージも数多く登場する。いつどこを訪れても音楽に触れない時期はないという、まさに音楽の都ならぬ音楽の国、オーストリアだ。

このようにオーストリアだけでもたくさんの劇場があるが、周辺諸国のオペラハウスもみていこう。

ハンガリー首都、ブタペストのオペラハウス

まずはハンガリーの首都ブタペストにある「ハンガリー国立歌劇場

ハンガリー国立歌劇場

ハンガリー国立歌劇場

1867年 – 1918年にかけて存在したオーストリア=ハンガリー帝国の時代、1875年に建設が始まり1884年に開館したネオルネッサンス様式の美しい劇場だ。初期にはグスタフ・マーラーが音楽監督を務めていた事もあるほか、リヒャルド・シュトラウス、ヘルベルト・フォン・カラヤンなども指揮をしている。

ハンガリー国立歌劇場内

ハンガリー国立歌劇場内

こちらの劇場でも年間を通してオペラやバレエなどが上演されているが、2018/2019年シーズンは改装工事の為、公演は行われていない。その代わり2018/2019年シーズンの公演は「Erkel Theatre」で行われている。「ハンガリー国立歌劇場」の改装工事は2019年の始めには終了する予定だが、改装中でもオペラ座内ガイドツアーやオペラ座ショップなどで訪れる事が出来る。ステージや装置などが近代化された2019年以降の公演を楽しみにしたい劇場だ。

チェコ首都、プラハのオペラハウス

そしてチェコの首都プラハには「プラハ国立歌劇場」をはじめいくつかの劇場がある。

プラハ国立歌劇場

プラハ国立歌劇場

「プラハ国立歌劇場」は1888年にドイツ語で上演する劇場をという目的で創立され、ナチス時代には政治的な集まりにも使われていた事もある場所だ。第二次世界大戦後は「スメタナ劇場」と改名され、1989年以降は「プラハ国立歌劇場」として年間300を超えるオペラ、バレエ、演劇などが上演される劇場となっている。こちらも2018年現在、改装工事中で、2019年再オープンする予定だ。

その間は国民劇場(The National Theatre)、ヨーロッパでも最も古い劇場の1つである1783年創立の「エステート劇場」、「The Karlín Music Theatre」、「The New Stage(Nová scéna)」で上演を楽しむ事が出来る。プラハの劇場の数の多さと幅広さには驚かされる。それぞれプログラムを調べて色々な劇場を訪れてみたい都市だ。

プラハ国民劇場(The National Theatre)

プラハ国民劇場(The National Theatre)

エステート劇場

エステート劇場

スロバキア首都、ブラティスラヴァのオペラハウス

今回取り上げる中欧オペラハウス巡りの最終地は、スロバキアの首都ブラティスラヴァだ。ここには2つのオペラハウスがあるが、1つはオーストリア=ハンガリー帝国から独立した2年後の1920年に創立された「スロヴァキア国立劇場」もう1つは建設開始から長い期間を経て2007年にオープンした新国立劇場で、シーズン中はこの2つの劇場でほぼ毎日オペラやバレエ、演劇などが上演されている。

スロヴァキア国立劇場

スロヴァキア国立劇場

注目されることの少ないスロバキアの首都ブラティスラヴァだが、旧市街や、ドナウ川を見下ろす所に城もある美しい街だ。旧共産圏の名残と現代的な雰囲気が融合している街は、行ってみるとなかなか面白い。ここからウィーンまでの距離は80kmで、世界で一番近い首都同士だ。2つの都市の間はバスや船で気軽に行き来出来るので、ウィーンから日帰りで簡単に訪れる事が出来る。

そしてこの距離の近さを利用したウィーン発の日帰りオペラバスツアーがある。出発はウィーンのオペラ座横、バスで1時間ほどでブラティスラヴァ中心地に到着する。往復バス、オペラ座チケット、休憩時間のスパークリングワインが1杯付いたパッケージで、オペラの演目や座席カテゴリーによって料金が異なる。周辺のホテルでの3コースディナーを追加する事も可能だ。ディナーを申し込まない場合は到着してからオペラ開始まで自由時間となる。オペラの終演時間に合わせてすぐ横に待機している帰りのバスに乗り、ウィーンのオペラ座まで戻って来れる。ブラティスラヴァのオペラハウスは小規模ながらとても美しく、料金も安い。便利なバスツアーを利用して、気軽にもう1カ国、オペラハウスをもう1カ所回ってみるのもお勧めだ。

ブラティスラヴァオペラツアーの詳細/申し込みは現地の旅行会社Elite Toursでできる。

中欧のオペラハウスを更に深く楽しむ

オペラハウスに行く時には会場に合った服装で行くのはもちろんだが、その日の演目の大まかなストーリーを頭に入れて行って欲しい。そして開演時間ギリギリではなく、公演開始30分前には到着するようにしたい。幕間や終演後は意外と時間がないので、建物内を楽しむなら開演前だ。入場やクロークに時間がかかる場合もあるので、余裕を持って劇場に到着し、プログラムも購入、座席の位置も確認してから、ドリンクを片手に劇場内を歩いてみよう。建物のインテリアや、展示、それぞれの劇場によって(時には演目によって)異なる特徴がある観客を見て歩くのも楽しい。そして、それぞれの国や劇場の歴史、上演する演目の作曲家とその国との関係、指揮者にオーケストラ、出演歌手の経歴などまでも調べて深く入り込んでいくと、更に面白くなって来る。

どこまで深く入って行くかは人それぞれだが、オーストリアをはじめ中欧諸国では、是非いくつか訪れてみて欲しいオペラハウス。それぞれの劇場で歴史や伝統、その国の文化と人々の生活に触れると、世界が広がる事は間違いない。

写真提供元:Wikimedia Commons
・ハンガリー国立歌劇場内 By Christian Michelides (Christian Michelides) [CC BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)],
via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ungarische_Staatsoper_-_Innenraum.JPG 

・プラハ国民劇場(The National Theatre)By Karelj [Public domain], from Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:N%C3%A1rodn%C3%AD_divadlo_2.jpg

写真提供元:プラハ国立劇場
・プラハ国立歌劇場/エステート劇場 https://www.narodni-divadlo.cz/en/press/photogallery

文・写真/バレンタ愛
12年間のウィーン生活後、2016年よりカナダ・オタワ在住。長年のヨーロッパ生活とトラベルコンサルタントなどの経験を活かし、2007年よりフォトライターとしても幅広い分野において多数の媒体に執筆、寄稿、写真提供。海外書き人クラブ会員。

 

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