写真・文/石津祐介

絞り染めで栄えた旧東海道の町、有松

有松は、かつて江戸と京都を結んだ旧東海道の池鯉鮒(ちりゅう)宿と鳴海(なるみ)宿の間に、慶長13(1608)年に尾張藩によって開かれ、絞り染めの産地として大いに栄えた。ここで作られる有松絞りは、東海道を往来する旅人の土産物として考案され、絞りの手拭や浴衣などが人気を博した。以後、藩の特産品として保護を受け、有松は大いに栄えたという。その繁栄ぶりは、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵にも描かれるほどであった。

歌川広重の浮世絵に描かれた有松の街並み(東海道五拾三次 鳴海・〔名物有松絞〕 国立国会図書館ウェブサイトより)

町並みは、天明4年(1784)の大火で多くが焼失したが、尾張藩の援助もあり20年ほどで復興を遂げ、切妻造、平入、塗籠造の町家で構成される町並みとなった。明治時代には東海道の往来者が減ったことにより有松絞りは衰退したが、その後新たな意匠や製造法、卸売販売への業態転換などにより販路が拡大し、明治後期から昭和初期に最も栄えた。

そして有松は、絞商の豪壮な屋敷構えと、絞りに関わる諸職の町家が混在して建ち並び特色ある町並みを良く残すとして、平成28(2016)年に国が選定する「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれた。

愛知県で2地区目となる 重要伝統的建造物群保存地区に選ばれた有松

東海道沿いには、当時の繁栄ぶりを思わせる豪壮な伝統的建築物が多く残っており、有松絞りで栄えた様子を今に伝えている。町並みには、壁と軒裏を漆喰で塗り固めた「塗籠造(ぬりごめづくり)」や二階部分に格子状に開口部を設けた「虫籠窓(むしこまど)」、卯建で装飾された屋根など、町家建築の特徴を持つ絞商の主屋が並ぶ。有松の絞商は、東海道を往来する旅人に商品を販売するために、間口の広い主屋を東海道沿いに面するように建てられている。

有松の町並み保存地区に残る文化財

竹田家住宅は、旧東海道を代表する建築物のひとつで、市指定有形文化財。時代とともに改築されながも江戸末期の様式を継承しており、主屋、蔵、茶室、26畳の書院造りの座敷からなる。2階の壁は黒漆喰の塗籠造。庇には明治期のガス燈がのっているのが特徴。有力な絞商の屋敷構えの典型となっている。

有力な絞商の特徴を残す竹田家住宅

 

服部家住宅は、絞りの原材料や米を貯蔵する蔵や荷造りの作業場がある有松の絞り問屋を代表する建物で、県指定文化財。主屋は文久元年(1860)に建造。主屋は木造2階建の塗籠造、2階は虫籠窓になっていおり、卯建があがっている。

敷地間口が有松で最大の服部家住宅

 

服部良也家住宅は、明治28年(1895)に建造された県指定有形文化財。明治期に創業した当時の絞商の屋敷の大部分が残っている。2階部分の虫籠窓に金属製の丸棒が使用されており、これは明治期以降の主屋に見られる特徴。また西側にある重厚感あるなまこ壁の土蔵も見所だ。

虫籠窓に金属製の丸棒が使用された服部良也家住宅

 

卯建(うだつ)をあげる主屋が特徴の小塚家住宅。市指定有形文化財で、主屋は文久2年(1862)建造。建物には主屋、水屋、表蔵、南蔵、茶室など絞商の屋敷構えが一式残っている。

小塚家住宅は、有松では数少ない卯建の上がる建物

 

江戸末期頃に建造された岡家住宅。市指定有形文化財で、主屋は平入、桟敷瓦、1階には格子をはめ、2階は塗籠造で、虫籠窓となっている。主屋の間口は有松の伝統的建造物の中で最大となっている。

江戸末期に建造され、大きな間口が特徴の岡家住宅(名古屋市観光文化交流局より提供)

 

明治中期に建造された中濱家住宅。国登録有形文化財で、旧東海道に面して建つ町家。正面西隣に土蔵が並び、1階正面は木格子で統一してある。2階は虫籠窓が並び、黒漆喰で塗り込められている。当初は山田与吉郎家の建物であった。

堂々とした風格のある町家、中濱家住宅

 

明治8年(1875)に建造された棚橋家住宅。国登録有形文化財で、元は有松を代表する絞商の建物として建てられたが、昭和8年(1933)からは医院として約50年間使われた。1階に出格子を設けてあり、2階は格子窓が並び、漆喰で塗り込められている。

絞商として建てられた棚橋家住宅は、近年は医院として使われていた

 

有松の発展を支えた絞りの特徴は、その絞り技法の多彩さにあり、伝統の絞り技法の数は100種類以上あると言われている。現在、有松の町では伝統的なものから現代風にアレンジされたものまで、様々な絞り製品を見ることができ、また絞の体験ができる施設もある。

有松・鳴海絞会館では、絞りの歴史や資料などが展示されており、また職人による絞り実演も行われており、有松を知る上でぜひ訪れたい施設だ。

有松・鳴海絞会館では絞の歴史や実演、絞り製品の展示販売が行われている

様々な絞り文様が展示され、その技法などが紹介されている

熟練の職人による、絞りの実演を見学できる

毎年、6月第1土・日曜日には「有松絞りまつり」も開催され賑わいを見せる。また、10月の第1日曜日には江戸時代から明治時代に製作された山車が曳き回される「有松山車まつり」も見逃せない。
町並みを散策し江戸の雰囲気を味わいつつ、伝統の絞り染めを楽しんでみてはどうだろうか。

【有松へのアクセス】
電車:名鉄 有松駅下車 徒歩5分
バス:市バス 有松小学校前 徒歩3分
車:名古屋第二環状自動車道 有松ICより東へ約1分

写真・文/石津祐介
ライター兼カメラマン。埼玉県飯能市で田舎暮らし中。航空機、野鳥、アウトドア、温泉などを中心に撮影、取材、執筆を行う。

 

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