取材・文/池田充枝
東山魁夷は明治41年(1908)横浜生まれ。神戸で育ち、大正15年(1926)に東京美術学校日本画科に入学。卒業後は研究科に進み、結城素明に師事し、雅号を「魁夷」としました。
研究家を終了したのち、25歳でドイツに留学。日独交換学生に選ばれ、ヨーロッパ各地を回りながら西洋美術史を学びます。しかし、27歳のとき父の病気のため留学を中断して帰国しました。
帰国後は、太平洋戦争への応召、肉親の相次ぐ死といった試練に見舞われます。そうした苦難のなか、風景の美しさに開眼し、戦後はおもに日展を舞台に活躍。39歳で第3回日展に《残照》を出品して特選を受賞します。
一貫して自然と真摯に向き合い、思索を重ねながら創り上げたその芸術世界は、日本人の自然観や心情までも反映した普遍性を有するものとして高く評価されています。
平成11年(1999)5月6日、国民的画家と称された魁夷は90歳でこの世を去りました。
東山魁夷生誕110年を記念した大回顧展が開かれています。(10月8日まで)
本展は、代表作《残照》《道》《緑響く》のほか、ヨーロッパや京都の古都の面影を描いた本画約70点とスケッチ、習作により、東山魁夷の画業の全貌を辿ります。また、東山芸術の記念碑的大作、奈良・唐招提寺御影堂の障壁画(襖絵と床の壁面全68面)を再現展示します。なお本展は、京都では30年ぶりの大回顧展となります。
本展の見どころを、京都国立近代美術館の主任研究員、小倉実子さんにうかがいました。
「東山魁夷の作品と言えば、すぐに思い出されるのが、白馬のいる風景なのではないでしょうか。印象的な作品ですから、生涯にわたり描かれていた、と、思われるかもしれませんが、実は、昭和47(1972)年の1年間しか描かれていないモティーフなのです。
この年東山は、奈良の唐招提寺から依頼された鑑真和上像を祀る御影堂の障壁画制作にあたり、まず唐招提寺と鑑真和上の研究を1年かけて行いました。その合間に画廊展用の制作も行ったのですが、その時、どのような風景を描いてもそこに小さく、ひかえめに白馬が姿を見せるようになったといいます。障壁画に相応しい神聖な風景を模索していた画家の眼前に舞い降りた、古来、神の使いとされる白馬は、いつも東山が描いてきた風景にこそ、聖なるものが宿っているのですよ、と教えてくれたのかもしれません。
後に東山は、白馬を、自分の祈りの現れ、と、語っていますが、この体験を通して「絵を描くことは祈り」と悟って以後の作品に白馬が描かれることはありませんでした。
《緑響く》(本作品は昭和47年に描いた作品の行方が分からなくなったことを惜しんで昭和57年に再制作したものです)などの白馬のいる風景画5点と、その白馬に導かれるようにして描いた唐招提寺御影堂障壁画の全てを御覧いただける貴重な機会に、是非、東山の「祈り」を感じていただければ、と思います」
心洗われる深遠かつ清新な風景に出合える展覧会です。会場でじっくりご鑑賞ください。
【開催要項】
生誕110年 東山魁夷
会期:2018年8月29日(水)~10月8日(月・祝)
会場:京都国立近代美術館
住所:京都市左京区岡崎円勝寺町 岡崎公園内
電話番号:075・761・4111
展覧会公式サイト:http://kaii2018.exhn.jp/
美術館サイト:http://www.momak.go.jp/
開館時間:9時30分から17時まで、金・土曜日は21時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し翌火曜日休館)
巡回:東京・国立新美術館(10月24日~12月3日)
取材・文/池田充枝