英国の旅にもさまざまなスタイルがあるが、旅慣れた人にこそ注目していただきたいのが、テムズ川上流域の美しきカントリーサイドを巡る旅だ。
ランドマークとなるのは、ウィリアム1世がロンドンからテムズ川を35キロほど遡った高台に築いたウィンザー城。レンブラントやルーベンスなど王室のコレクションが飾られた宮殿の中心をなす公式諸間、クイーン・メアリーのドールハウス、ヘンリー8世が眠るチャペルなど、英国王室900年の歴史が凝縮された場所だ。
当時、テムズ川はロンドンとを結ぶ最上の交通路であり輸送路であった。やがてそこにイングランド全土と結ばれる一大ネットワークが築き上げられ、下流域は世界で最も交通量の多い河川に数えられることとなった。テムズ河畔の美しさの背景には、英国の理想や豊かさが反映されているのである。
今回はそんなテムズ川上流域の5つの見どころをご紹介しよう。
■1:ヘンリー・オン・テムズ
ウィンザーから20キロほど西に進んだ場所にあるヘンリー・オン・テムズは、その名のとおりテムズ川沿いの小さな町。テムズ川といえば蛇行を繰り返すことで知られるが、ここには2000メートルほど、まっすぐな流れがある。これがオックスフォードとケンブリッジとの大学対抗試合で有名な「レガッタレース」が繰り広げられる舞台である。
現在は王室メンバーがパトロンになり「ロイヤル」の名が冠せられる大会になっており、近年ではアン王女も観覧している。そして王族が参加した際、彼らを迎え入れたのが、17世紀に創業された「レッド・ライオン・ホテル」。ピューリタン革命で処刑されたチャールズ一世と、彼を倒したクロムウェルなど、英国史を飾る歴史上の要人が宿泊名簿に名を連ねる名門だ。眼下に広がるテムズ河畔を眺めながら、英国紳士気分に浸ってみたい。
■2:ソニング
テームズ川沿いのソニングは、イングランド南東部バークシャー最大の街であるレディングに近い美しい土地。小さな村でありながら、「ザ グレート ハウス アット ソニング ホテル」に代表される一流のホテルや、「オーウェルズ・アット・シップレイク」などのレストランが名を連ねていることで有名。メイ首相の邸宅や、俳優のジョージ・クルーニーが邸宅を構えてもいる。
テームズ川にボートがゆったりと行き交う光景を眺めているだけで、時間の経過を気にすることなく、ゆったりとした気分になれるだろう。
■3:オックスフォード
ソニングから、古代ローマ人が砦を築き、当時から交通の要衝だったゴリングを抜けると、やがてオックスフォードにたどり着く。有名なオックスフォード大学が創設されたのは11世紀ごろだが、街の歴史はさらに古い。
サクソン人の集落がここに築かれ、その名(オックスは牛、フォードは浅瀬)が物語るように。牛がテムズ川を横切る渡し場として発展したとの説もある。
中心は2キロ四方に収まる大きさだが、カレッジだけでなく、建築家クリストファー・レンの設計によるシアター、映画『ハリー・ポッター』の食堂シーンが撮影された大聖堂、ルイス・キャロルの名作『鏡の国のアリス』に登場する店など、多くの見所が存在する。
■4:バイブリー
工芸家のウィリアム・モリスが、「イングランドでいちばん美しい村」と称えたバイブリー。はちみつ色のライムストーンを使用した家々が並ぶ光景が美しいが、最大の見どころは14世紀の家並みがそのまま残されたアーリントン・ロウ。村の中心に流れるコルン川、そして名物のマス料理も魅力だ。
■5:テッドベリー
テッドベリーは、羊毛交易で栄え、王室の人々の避暑地でもある街。その歴史は紀元後681年にまで遡り、中心部に位置するセント・メリー・ザ・ヴァージン協会は、初期のサクソン人が修道場として建造したものだという説も。多くのアンティークショップが並んでいることも人気のひとつで、街全体が愛らしい落ち着きを醸し出している。
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以上、英国はテムズ川上流域の5つの見どころをご紹介した。
ワールド航空サービスで英国ツアーを担当する、東京支店の矢澤さんはこのエリアの魅力について、「のどかな田園風景と歴史をにじませた街並みとの調和がほんとうに絶妙で、とても英国らしい場所。英国紳士・淑女たちが憧れてきたのもよくわかります」と語る。
テムズ上流域のカントリーサイドが映し出すのは、川と緑、花、それらに囲まれたカントリーハウスの風景。時代の変化にとらわれることなく、伝統や威厳を大切にするイングランド人の気風が伝わってくるのである。イギリスの憧憬を実感するためにも、ぜひ一度訪れてみたい。
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文/印南敦史