「青春18きっぷ」だけを使って行ける日本縦断の大旅行を企てた、58歳の鉄道カメラマン川井聡さん。南九州の枕崎駅から、北海道の最北端・稚内駅まで、列車を乗り継いで行く日本縦断3233.6kmの9泊10日の旅が始まった。

9日目は北海道、函館駅を出発、旭川駅を目指す。

8日目《ウェスパ椿山駅~函館駅》の様子はこちら

「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅《9日目》のルート(赤の区間です)

《9日目》函館 8:18 ~ 長万部 11:19

函館のホテルのレストランで、青函連絡船を見下ろしながらの朝食をとる。ビュフェスタイルで、イカ刺しやらイカゲソカレーやらなかなか贅沢な朝ご飯をいただいてから、朝市を散歩した。

「請不要吃」「don’t try this please」などという表記に外国人観光客の多さをあらためて実感し、そして「浜ゆでタラバガニ一尾 3.9kg 32,000円」という価格表記に若干の敗北感を感じながら、「干し貝柱500円」を購入。
これでいいのだ。

そして函館駅へと向かう。2003年に改築された函館駅は、まだまだ真新しい。

函館駅のホームに出ると、北海道新幹線への連絡快速「はこだてライナー」が停まっていた。函館駅の駅番号はH75。函館本線の起点だけれど、番号としては端っこの扱いなのだ。

さて、この旅もいよいよ9日目に突入だ。本日最初に乗車するのは、8:18発の長万部行き。北海道カラーも鮮やかなキハ40だ。

ホームには、連絡線時代をしのばせる緩やかなカーブが残っている。しかし寝台列車や、津軽海峡を越える特急列車が姿を消し、ずいぶん寂しくなってしまった。日本で初めて構内食堂を経営した「みかど」の流れを汲む「函館みかど」で立ち食いソバをすすってから列車に乗り込んだ時代は、もうずいぶん昔のことになってしまった。

駅を出発してまもなく、左手にかつての「スーパー白鳥」号の車両が見えた。青函連絡の役目を終えたいま、今後は札幌近郊で特急列車に入るという。そはいえこうして潮風に晒されているのはちょっと寂しい光景である。

長万部行きの列車は、観光の客さんでほぼ満席。これくらい賑わってくれてると「乗り甲斐」もある。

乗客の大半は、北海道新幹線の連絡駅「新函館北斗」駅で下車した。車内は一気に静かになってしまった。かつての無人駅も、新幹線開業で一気に主要駅となった。

車内の路線図も、この駅の表記がいちばん大きい。こちらはそんなことは関係なく、「青春18きっぷ」のルール通りに、ゆっくりゆるゆる北上するのだ。

大沼駅で5分停車。跨線橋ちかくの柱には「SL大沼号」の停車位置目標と思われるものがまだ掲げられていた。2001年から毎年運転されていたSL列車だったが、2014年で運行終了。

いまだに停止目標が掲げられているのは、地元が復活をどこかで期待しているからなのか、それとも取り忘れただけなのか。運転士さんもその理由は知らなかった。

やはり大沼公園は人気スポット。ここで残りの人たちが殆ど下車して、車内はガラガラに。

ここでも国鉄時代と変わらない伝統のモケット。ブルーの椅子は、旅色の椅子なのだ。

大沼公園を出た列車は、駒ヶ岳の麓を快走する。途中にあった東山・姫川の両駅は2017年3月に廃止。旧東山駅周辺ではかなり広いエリアで何やら伐採作業が進んでいた。駅を廃止したあとで何か大きな施設を作る計画だろうか。

東川駅の跡地には、駅名標を取り払われたホームだけが残されていた。

函館駅から一時間あまりで、森駅到着。噴火湾に面した駅の光景は昔と変わらない。この駅で30分ほど停車する。

陸橋を越えて向かった先は、駅の売店。目指すは森駅名物「いかめし」。駅弁フェアなどではおなじみの常連だが、森駅で買ったのは何十年ぶり。キーパーでアツアツに保たれた「いかめし」は、まだほのかに湯気を立てるほど。

窓際に駅弁を乗せて撮影すると、湧き上がる香りに負けて早々にいただく。イカと御飯と景色と波音のマッチングが最高。やはり駅弁は、現地で食べる贅沢にはかなわない。

このときは650円だったが、昨今のイカ不漁で一気に120円アップの780円に値上がりするという。この値段でもお客さんが付いてこられるか不安だが、イカ不足はそこまで深刻なようだ。

駅弁を食べていたら、停車中の見回りをしていた運転士さんがやってきた。東山駅近くの伐採作業が気になったので尋ねてみると、「アレは、辺り一面の木が軒並み倒れてしまったんで、その後片付けをやってる」とのこと。

なんでも、前の月に来た台風並みの低気圧が、沿線各地の森をなぎ倒し列車も運休となったという。

「八雲駅まで行く途中でも、林ごと倒されたところがいっぱいあるよ」と彼が言うように、その後も各地で見事なくらい倒されてしまった林をみた。いままでの北海道ではめずらしいほどの強風が吹いたようだ。

運転士さんは、東山駅の思い出も話してくれた。

「東山駅に停車するのは楽しみだったんだ」

「誰も乗降しない駅だったでしょう?」

「あの駅はSカーブの急な下り坂な上にホームがとても短いから、正確に停まるのがすごく難しかった」

低気圧で木が薙ぎ倒されたという、今では解らない苦労もあった。

「以前は木が茂って周辺の景色が見えないから、いっそう難しかった。だから満足いくように列車を止められたら『やったぁっ!』て感じだよ」

こんな話を聞くと、熟練のワザを現地で体感したくなった。

2017年3月には、東山だけでなく、桂川、北豊津、蕨岱、などの各駅が廃止となった。駅が消えてしまうのは寂しいが、一日の平均乗降者数が一人に満たない状況では、やむを得ないことだろう。

曲線が綺麗な落部駅にて。国鉄分割民営化のころ、ホームを短くしたのだが、それでも長い曲線は健在だ。

11時19分。定刻に長万部到着。サボを交換。どうやら帰りは渡島砂原回りになるようだ。

このあたりからは、北海道のローカル線の本領発揮である。下りの普通列車は、函館本線経由が13時18分、室蘭本線経由に至っては15時26分まで「おあずけ」だ。もちろん室蘭本線経由の特急は一時間おきに来るのだが、もちろんそれは眺めるだけ。

長万部は美味しい駅弁に恵まれてるから、ここでランチタイム。頃合いもちょうどいい。

長万部には、全国でも珍しい“ソバの駅弁”がある。この弁当を作っている駅前のそば屋さんで昼食をとる。地元の人たちが食べに来る人気店らしく、入ったときはがらんとした店内だったが、お昼近くにはほぼ満員になった。

特急が到着する時間になると、「かにめし」屋さんと「そば」屋さんがホームに向かう。窓の開かない特急ばかりで立ち売りが成り立たない今、団体客や車内販売が弁当の注文をとりまとめてくれる。

駅弁も、今は車で食べに来る人が多い。そんな状況で始まったサービスが、列車の中をイメージした食事スペースだ。

特急用の座席を配置してその車内で「かにめし」を食べることができる。駅弁とともに育ってきた会社ならではのアイディアだろう。

まもなく長万部に到着する。

>>次のページに続きます。

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