1日あたり2,370円で日本全国のJR線の普通・快速列車の自由席が乗り放題になる「青春18きっぷ」。青春と銘打たれてはいるが、利用年齢に制限はない。むしろ鈍行を乗り継いで行く自由きままな鉄道旅は、時間にしばられないサライ世代の特権だ。
さて今回、この「青春18きっぷ」だけを使って行ける日本縦断の大旅行を企てたのは、58歳の鉄道カメラマン川井聡さんである。ルールは5枚つづりの「青春18きっぷ」2枚分(2万3700円)、つまり5日間×2=10日間だけで達成できることと、車窓を楽しめるようになるべく日中の移動を基本にすること。
九州の南のほぼ端・枕崎駅から、北海道の北の端・稚内駅まで、列車を乗り継いで行く日本縦断3233.6kmの9泊10日の旅。いったいどんなルートをとるのだろう。さあ長い旅の始まり、始まり!
《1日目》枕崎 6:08 → 鹿児島中央 8:51
早朝、ホーム一本、線路一本の枕崎駅に立つ。数年ぶりに訪れたこの駅には、真新しい駅舎が建っていた。地元の人たちの寄付で建てられたもので軒下にはお金を出した人たちの名前が書かれていた。
廃止も一部でささやかれている路線に、高齢者らしい人たちが何百万というお金を寄付していた。「これで少しでも使う人が増えてくれたら」という思いが伝わるようだった。
長い旅が、ここから始まる。
朝6時8分発の始発列車に乗り込む。乗客は他になし。ホームには「枕崎」と「稚内」の文字が書かれた大看板が待っていた。まるでこの旅行のために特注で作ってくれたような内容に、旅気分は一気に盛り上がる。
でも、まさかこの5分後に、旅の「前途多難」を伝える車内放送を聞くことになるとは思いもしなかった。
「この列車は、鹿児島中央行き普通列車です。昨夜からの雨の影響で速度を落として運転いたします」
枕崎駅を出て最初の車内放送がこんな具合であった。運転士さんの「宣言」通り、時速は30キロ前後にスローダウン。停車駅毎に時計を見ていると、みるみるうちに予定時間を過ぎて遅れてゆく。
「アカンなぁこのままやったら最初っから乗り遅れやないの」……とは思ったものの、そもそもが普通列車を乗り継いでの気ままな旅。このぐらいのトラブルなら問題ないだろう。むしろ遅れたら遅れたでちょっと嬉しい。
稚内駅までの長い長い汽車旅は、小雨が降る中、白いディーゼルカーでスタートした。