《4日目》松本 13:29 ~ 姨捨 14:09

塩尻~長野を走る篠ノ井線は不思議な路線だ。

1902年の開業当時は中央本線の一部として、東京方面から塩尻・松本を経て、長野までを結んだ路線である。しかしその後、中央本線の全通により同線の枝線扱いとなる。1911年には篠ノ井線として分離。独立した路線となった。成り立ちからも、中京・関東方面と長野を結ぶ役割は大きく、幹線なみの重責を担ってきた。

しかしこの区間は松本盆地と長野盆地の間にある「冠着越え(かむりきごえ)」という難所がある。急勾配と長大トンネルそして4つのスイッチバックが連続する区間で、蒸気機関車の時代には、とんでもないボトルネックでもあった。

現在残っているのは桑ノ原信号所と姨捨駅の二つ。このうち姨捨駅は明治時代から「日本三大車窓」と呼ばれた絶景車窓である。「車窓」なので、初日に眺めた矢岳同様、乗車したままでも楽しめるのだが、やはり下車して絶景を味わいたい。それに三大車窓の中で、駅から楽しめるのはこの姨捨だけである。

何度訪れても心地よい駅だ。川中島古戦場がある善光寺平を見晴らす今日は、とてもきもちいい。案内によると、この付近は平安時代から月の名所として知られたところ。夕刻になれば「田毎の月」も拝めそうだ。

近年はこの景色を再評価する動きも高まっているようで、JR東日本の「リゾートビューふるさと」や、しなの鉄道の「ろくもん」観光列車が次々とこの駅を目指すようになった。そして極めつけがクルーズトレイン「四季島」である。この列車の立ち寄りに会わせホーム上には夜景バーが新設された。

ただこの駅のベストポイントは、谷側に面した2番線ホームだ。線路に背を向けたベンチで景色をツマミに缶ビールを開ける。ここまで我慢した甲斐がある。この開放感はやはりビールである。

2番ホームに最近新設されたらしい待合室は穴場のポイント。跨線橋の階段下にあるが、窓が谷に近いためダイナミックに楽しめる。冬景色を風の心配なく楽しむには最高だろう。

《4日目》姨捨 15:08 ~ 長野 15:41

姨捨に次ぐもう一つのスイッチバック桑ノ原信号所で、列車交換の停車。名古屋行きの特急「しなの」が軽快に坂道を駆け上っていった。

《4日目》長野 16:30 ~ 戸狩野沢温泉 17:37

長野駅に到着。ここで今回の旅路もほぼ半分。前半は距離を稼ぐことがメインだったが、今日以降はスケジュールが変わることを見越して宿も決めていない。この辺からは速度を落として「のんびり」を楽しもう。

長野駅で『のんびり』していたら、ホームはえらいことになっていた。ちょうど高校の終業時間。帰りの学生たちがホームに長い列を作っている。2両編成のディーセルカーだが、乗れるのか心配になるくらい。

それでもなんとか、無事に乗車。北長野、三才、豊野と一駅ごとにどんどん降りていく。ちょっと落ち着いたので車内を一巡り。それにしても男女生徒ともに妙に身だしなみがイイ。いくつもの学校の生徒が利用しているようだが、教育県と言われるだけあって、服装がみな整っている。

実はこの長野駅~豊野駅は、北陸新幹線金沢延伸開業で第三セクターに分離されてしまった。なのでこの区間は乗車券250円が必要となる。「青春18きっぷ」のエリア外となってしまうが、ここだけは致し方ない。

替佐駅で、列車は再びJR線に戻る。替佐は唱歌『故郷(ふるさと)』の作詞者、高野辰之博士のふるさとを走る。ホームでは彼が作詞した「春の小川』や「朧月夜」が流れる。

夕暮れ前に、戸狩野沢温泉駅に到着。ここで殆どの学生が下車。2両あったディーゼルカーもここで1両を切り離し、上り列車となって長野に戻る。

戸狩野沢温泉駅から先へ行く列車の間隔が4時間以上も開いたので、今日はここで泊まることにする。まだ日暮れまで時間があったので、ミニハイキングをし、信州の里山の美しさに思わず知らず感嘆の声が出た。流れる水の美しさに誘われるように地酒を買い込み、旅の友とした。

宿について窓から外を眺めたら、夕日に山が染まっていた。

列車の乗継ぎは貴重な休憩時間でもあり発見の時間だ。18きっぷの魅力は「自由さと不便さ」にあると思う。便の減ったローカル線では「下車する楽しみが増えた」くらいの気持ちがちょうど良い。

さて、明日は戸狩野沢温泉駅から、福島県の会津へと向かう予定だ。

<5日目に続く!>

文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。

【実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅】
※ 1日目《枕崎駅~熊本駅》
※ 2日目《熊本駅~宮島口駅》
※ 3日目《宮島口駅~名古屋駅》
※ 4日目《名古屋駅〜戸狩野沢駅》
※ 5日目《戸狩野沢温泉駅~只見駅》
※ 6日目《只見駅~鶴岡駅》
※ 7日目《鶴岡駅~ウェスパ椿山駅》
8日目《ウェスパ椿山駅~函館駅》
9日目《函館駅~旭川駅》

 

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