あらゆるパターンの相続トラブルを目撃してきた相続問題の専門家・曽根惠子さんに、これまであった相続トラブルの実例と、その解決策をご紹介していただきます。親はもとより自分自身も“終活”を意識する年齢にさしかかっているサライ世代。後戻りできない骨肉の争いを避けるために、ぜひ読んでおいてください。
【相続事件簿03】『後妻業の女』はゴロゴロいる! 愛人に払われた巨額の生命保険の相続税は誰が負担?
今回の相談者は、吉田卓弘さん(仮名・56歳)。半年前にお父様が87歳で亡くなりました。相続人は3人おり、お母様、吉田さんと養子縁組をしている吉田さんの息子さんです。
「母は10年以上前に認知症になってしまい、介護施設で生活をしています。ですから、相続の手続きは私がやらなくてはならず……」
聞けばお父様は税理士であり、事務所も経営していました。しかし、ひとり息子の吉田さんは全く財産について知りません。税理士という職業はお金のプロですが、ご自分のことは対策できていないばかりか、家族にも財産の内容を教えていない方が多いのです。吉田さんのお父様だけでなく、よくある話なのです。
世代的にも“お金について潔癖でありたい”とか“お金のことは家族であっても人に言わない”という考えの人が多く、いざ相続になった時に困ることになります。
「母親が認知症になって施設に入ってから、父親の生活が心配になり聞いたことがあったのですが、“お前には頼るつもりはない”と激怒されてしまってから聞けず。同居していないこともあって、なんとなく気が引けてしまったんですよね」
今わかっているだけで、不動産は都内に8か所あり、昨年度に土地を売却しています。相続人3人が受け取る生命保険もあり、4億円近い財産となり、相続税は9200万円となるというと、吉田さんは、頭を抱えられました。自身はメーカー勤務で、子宝に恵まれず養子縁組した息子が2浪。私立大学4年間の学費を払い、貯金が底を付いている状態だというのです。しかし、9200万円の相続税は、受け取る生命保険でなんとか払えそうです。
相続税のことだけでなく、吉田さんが許しがたいと思うことは、父親の愛人問題だといいます。お母様が施設に入所していることにつけこみ、父親は自宅で生活するのではなく、60代の女性と一緒に生活していたのです。その女性と一緒に住むためにお父様は都内の一等地にあるマンションを購入していますが、吉田さんは行ったこともありませんでした。
「明らかに財産目当ての女性だったんですよ。父の死後、父のクレジットカードの明細を見ると、この10年間で、フランス、イタリア、モロッコ、アフリカなど様々な場所を旅行し、各旅先で100万円ほど買い物させていました。母には着物1枚買わなかったし、息子の自分やにもほとんど何も買ってくれなかった。それなのに、その女性には100万円くらいするバッグを3個もその女性に買い与えていた履歴があって、驚きました」
父親は遺言書でその女性にマンションを遺贈(※注)するようなことがなかったことは幸いでした。当然、所有は相続人のものになり、女性の権利はありません。
「それでも、あの気難しい父の面倒を見てくれたのだから、多少のお礼をするつもりだったんです。ところが、赤の他人であるその女性が受取人となって2500万円の生命保険が払われたことがわかって、すっかり気持ちが変わりました。10年間も高級マンションに、家賃も払わず生活し、高額な買い物もしていたわけで、十分すぎるものは手にしていると思うと許しがたい気持ちです。亡くなった後も、住み続けているので、さすがに頭にきて、マンションから出て行ってもらいましたよ」
その女性はお礼を言うどころか“息子であるあなたの代わりに世話をしてやったのに追い出すとは恩知らずだ”と言い捨てて出ていき、行先はわからないとか。
「明らかに計画的に生命保険の受取人になったわけですから、あまりの図々しさに腹立たしくなりました。それだけでなく、証券会社や銀行の通帳がまったく見つからず、あらためて明細を取り寄せる手間がかかり、苦労しました」とのこと。
「保険金にも相続税がかかるのですか??」と吉田さんは質問、その答えとは……。
曽根さんの解説とアドバイスを聞いてみましょう。
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