文・写真/杉﨑行恭(フォトライター)
ヤマタノオロチを退治したスサノオ、その息子がオオクニヌシと日本書紀には書かれている。父はとてつもない大蛇と戦い、息子は白ウサギを助けたと古事記にある。そんな神代のスター、オオクニヌシを祭るのが出雲大社だ。
この出雲大社に詣でるために、JR山陰本線と接続する電鉄出雲市駅から一畑電車北松江線に乗った。
電車は、元京王電鉄の5000系電車。かつてのロングシートから2列+1列の変則クロスシートに改造され、車窓風景が見やすくなっている。
やがて川端駅で大社線に乗り換える。こんどは進行方向が変わり、平原の向こうから山脈が近づいてきた。のどかな出雲の風景を楽しむうちに終点、出雲大社前駅に到着した。
この駅は10年ほど前に来たことがある。駅舎は奇妙なドームを持つちょっと異国風のデザイン、昭和初期の駅舎は老朽化していた印象だった。そんな出雲大社前駅がすっかりリニューアルされていた。駅員に聞くと「2012年の出雲大社ご遷宮のときに改修工事をしました」という。
あらためてこのユニークな駅舎をみる。ホームの先に建てられたコンクリートの建物は、カマボコのような半円形のドーム屋根を持ち、正面にも釣り鐘形のファサードを設けている。そして明かりとりの窓には色ガラスがはめられ、陽がさしこむとステンドグラスのような光線が待合室を照らしていた。
室内には以前、切符売り場だったブースがあり、ムスリム寺院のようなアラベスク風の鉄格子が半円形に囲んでいる。駅舎の設計者は、あきらかに宗教的な雰囲気出したかったのだろう。しかし、大神宮の門前に、ここまで異国情緒を漂わせる駅が建てられたのも面白い。
その理由は、出雲大社前駅から歩いて10分ほどのところのある旧大社駅を見てわかった。ここは1990年(平成2)に廃止されたJR大社線の終着駅で、441平方メートルもある豪壮で重厚な和風宮造りの駅舎なのだ。
現在は国の重要文化財にも指定されている鉄道駅舎界の横綱で、戦前は全国から参宮列車がやってきた出雲大社の表玄関だった。大正時代に建てられたこの大型和風駅舎に対抗するため、昭和初期に開通した一畑電鉄は、出雲大社前駅舎を思いきりエキゾチックにしたのだろう。
ふたたび、出雲大社前駅に戻る。駅構内にはおしゃれなカフェも開店し、ホームには映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』にも登場したデハニ50形電車も静態保存され、内部を見ることもできる。
そんな駅舎がすこしキレイになりすぎたかなと感じるのはオジサンのワガママだろう。ちなみに駅から出雲大社の拝殿までは、ぶらぶら歩いても7分ほどだ。
【出雲大社前駅(一畑電車 大社線)】
■ホーム:1面2線
■所在地:島根県出雲市大社町
■駅開業(駅舎も含む):1930年(昭和5)2月2(日当初は大社神門前駅)
■アクセス:電鉄出雲市駅から一畑電車、川跡駅のりかえで30分
文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。