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文・写真/杉﨑行恭(フォトライター)

名鉄蒲郡線をご存知だろうか。愛知県の蒲郡から三河湾沿いに進み、吉良吉田駅までの17.6㎞を結んで淡々と走る、単線のローカル電車だ。

前身は大正時代に三河鉄道によって開通したもので、1936(昭和11)年には蒲郡から西中金(岐阜県に近い山中)までの長大な路線となった。時代は下って第二次大戦中に名鉄の傘下に入り、やがて2004(平成16)年には吉良吉田〜碧南間が廃止されてしまった。その先端に残ったのが蒲郡線だ。

蒲郡線

実はこの蒲郡線、終点の吉良吉田駅から名鉄西尾線に接続している。ただしこちらは元西尾鉄道という家柄が違う路線、名鉄に統合されて蒲郡線は強制結婚させられた感じだ。その西尾線は名鉄特急も走り、IC乗車カードが使える都市近郊路線。対して蒲郡線はワンマン運転の車内精算だ。

名鉄はこの蒲郡線を不採算路線として廃止を検討しているという、このため鉄道設備への投資も絞られている状況だ。

だが実はそんな路線こそ、雰囲気のある木造駅舎が残っているのだ。

*  *  *

夏のある日、蒲郡駅から蒲郡線に乗って、駅めぐりの旅をした。電車は蒲郡駅を出るとしばらくJR東海道線と並走し、ボートレース場のある名鉄蒲郡競艇場前駅をすぎると三河湾に向かって南下する。

民家もまばらになってきたころ、西浦駅で下車した。ここは西浦温泉の玄関口で、昭和時代はちょっとした観光駅だった。そのなごりの木造駅舎は蒲郡線としては大型で「昔はここに車庫もあったのよ」と駅にいたオジサンが教えてくれた。

今は窓口も閉鎖された無人駅で、待合室にはオジサンが捨てていった蒲郡ボートの予想紙が舞っていた。


西浦駅

ふたたび乗った電車は、三河湾沿いのリアス海岸地帯に入っていく。その小さな入江ごとに駅がある。

路地の奥に建つ東幡豆(ひがしはず)駅も、木造平屋の無人駅だった。壁に沿ってコの字形に置かれた長椅子が可愛い。電車が去ったあと、蝉しぐれのなか周辺を散策することにした。

駅の南側には「かぼちゃ寺」というお寺(はず観音)があり、その先には三河湾が広がっていた。ちなみに幡豆という地名は中世から続く古い地名だが、2011(平成23)年に西尾市に編入され、今は蒲郡線の駅名などに残るだけだ。


東幡豆駅

東幡豆駅豆ベンチ

電車は小さな丘を越え、次の入江にある西幡豆駅に入っていく。ここには下見板張りの雰囲気のいい無人の洋館駅舎が残っていた。おそらく1936(昭和11)年の三河鉄道時代の駅舎だ。

片流れの屋根もモダンな小ぶりの建物は、かつてこの近くに幡豆町の役場もあった中心地だけに、都会駅らしい洒落たデザインにしたのだろう。もっとも当時の三河鉄道は資金難で、最初は電化もされず蒸気機関車が走っていた。ここは名鉄に残る数少ない名駅舎だと思う。


西幡豆駅

現在、この名鉄蒲郡線は沿線自治体の存続運動と支援金でなんとか廃止を免れている状態だ。それも2020年度以降は未定という。運転は日中1時間に2本のダイヤですべて各駅停車だ。

さて、終着の吉良吉田駅にも木造駅舎が残っていた。ここは有人駅で名鉄西尾線との接続駅。しかし同じ名鉄だが蒲郡線と西尾線ホームの間にも、関所のように改札口があった。

吉良吉田駅

そんな蒲郡線の愛すべき木造駅舎にも、たくさん子どもたちの絵が飾られていた。そのほとんどが鉄道の存続を願うメッセージだった。

【名鉄蒲郡線】
■区間:蒲郡駅〜吉良吉田駅間(17.6㎞)
■駅数:10駅(両端駅を含む)
■運転:全列車が各駅停車で6000系2両編成のワンマンで走る
■料金:蒲郡線を全線乗ると450円、東幡豆〜西幡豆間は最小運賃170円

文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』『廃線駅舎を歩く』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。


『廃線駅舎を歩く』
(杉﨑行恭著、定価1500円+税、交通新聞社)
http://shop.kotsu.co.jp/shopdetail/000000002109/

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