文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

アメリカ合衆国の建国は1776年7月4日、カリフォルニアが31番目の州として連邦に加わったのは1850年9月9日である。

我が国と比較するまでもなく、きわめて若い国家であり州だ。常に新しいものを開拓する活力に満ちている。その反面、歴史が浅い分だけ、かえってアメリカ人には古い建物や風景を大切にする傾向があるように思えるときがある。 「伝統的」、「歴史的」、といった言葉をよく耳にする。

合衆国政府に国家歴史登録財(National Register of Historic Places https://www.nps.gov/subjects/nationalregister/index.htm)と呼ばれる制度があり、全米中の地域や史跡、あるいは建造物などの文化遺産が保護の対象となっている。今回紹介するクリスタル・コーブ歴史地域もそのひとつだ。

クリスタル・コーブ歴史地域(Crystal Cove Historic District)遠景。

クリスタル・コーブ州立公園はカリフォルニア州の太平洋岸を走る州道1号線(別名称パシフィック・コースト・ハイウェイ)に面し、ロサンゼルスから南へ向かって70kmほどの位置にある。

北側には人気テレビドラマ『The O.C.』(ジ・オーシー)の舞台になったことで知られる高級住宅地ニューポート・ビーチがあり、南側には芸術家の街として名高いラグナ・ビーチがある。この2つの「ビーチ」はともに人気が高く賑やかな観光スポットであるが、その間に挟まれた州立公園は自然保護のために開発が制限されている。そのおかげで、静かな海岸に山が迫った景観が現在も残る。コーブ(入り江)がついた地名の通り、カーブを描く優美な海岸線が印象的だ。

クリスタル・コーブ州立公園内のビーチ。

公園内でやや異彩を放っているのが歴史地域と名付けられた12エーカーほどの空間だ。そこには1920年代から1940年代にあった海岸沿いのコロニーを再現した小さな町がある。端から端まで歩いても、30分はかからないだろう。

46のコテージが修復され、当時の外観を再現した貸別荘やレストランが並ぶ。目の前は静かな海だ。ビジターセンターでは古い時代の写真や家具などを見ることもできる。まるで小さなテーマパークのようでもある。年間を通じて、訪問客で賑やかな州立公園内唯一の場所と言ってよい。

貸別荘として使われているコテージ群の前に整備された歩道。レストランも数軒ある。

ビジターセンターでの案内によると、20世紀の早い時期にアーバイン・カンパニーがこの地域を開発した。 広大な牧場から全米屈指の学園都市を作り上げた一族はここにもカリフォルニアの歴史に足跡を残している。

関連記事:大牧場から米国有数の計画都市を作り上げた華麗なる一族を偲ぶ記念図書館(https://serai.jp/tour/1056648

その頃に建てられたコテージ群にはハリウッドの映画監督やプロデューサーたちが住み、親密的なコミュニティーを形成していたということだ。大きくはないが、個性的なデザインの建物が多いことも頷ける。1988年公開の映画『Beaches(邦題:フォーエバー・フレンズ)』でロケーション撮影に使用されたコテージも現在も同じ外観のままでここに残されている。

建築当時の外観に修復されたコテージ。

州道1号線を走る公共バスを利用すれば、クリスタル・コーブ歴史地域はニューポート・ビーチからもラグナ・ビーチからも数10分ほどで到着することができる。車窓から海を眺めながらの道のりも楽しい。起伏のあるカーブに建つレストラン『SHAKE SHACK(https://crystalcoveshakeshack.com/)』の看板が見えてくれば、そこがクリスタル・コーブ歴史地域だ。

SHAKE SHACK。同名のチェーン店が誕生するよりずっと以前からこの地にある。

もっとも、海岸は断崖の下にある。町を訪ねるにはそこから長い階段を下りなくてはならない。当然、帰り道は上りなので苦しい。足に自信がない人は、崖の上から町までを往復するシャトルバス(The Beachcomber Café shuttle https://thebeachcombercafe.com/crystalcove/)を利用するとよいだろう。運賃は片道2ドル。12歳以下の子どもは無料だ(2024年5月現在の情報)。 

シャトル停車場。

クリスタル・コーブ州立公園公式ウェブサイト内歴史保存地域案内ページ: https://www.crystalcovestatepark.org/the-historic-district/

文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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