文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/ドイツ在住ライター)

学問・音楽・自由の都、ライプツィヒ

ゲーテの戯曲『ファウスト』に登場する「Auerbachs Keller」の壁には森鷗外が描かれている。

文豪ゲーテ所縁の地を結んだケーテ街道8都市横断の旅も最終回。フランクフルトとヴェッツラー(https://serai.jp/tour/1043112 )、フルダとアイゼナハ(https://serai.jp/tour/1047143)、エアフルトとワイマール(https://serai.jp/tour/1054975 )に続く7番目の町はライプツィヒ。

ゲーテは1765年に16歳でライプツィヒ大学に入学し、3年ほど法律学を学んだ。1409年に創立されたライプツィヒ大学は、ニーチェやシューマン、ドイツ元首相のアンゲラ・メルケルら多数の著名人を輩出した名門。日本の森鷗外も1884年から1年間留学して医学を学んでいる。

トーマス教会前に立つバッハ像。教会内部にはバッハのお墓もある。

偉大なる音楽家、ヨハン・セバスチャン・バッハは、人生の後半をライプツィヒのトーマス教会のオルガニスト兼指揮者として過ごし、多くの名曲を生み出した。ほかにもメンデルスゾーンやワーグナーなどそうそうたる音楽家が活躍したこの町には、彼らの家や博物館、世界最高峰と名高いゲヴァントハウス管弦楽団の本拠地など、ファンにはたまらないスポットが目白押しだ。

シュロの木形の柱が印象的なニコライ教会。パステルカラーの明るい教会。

ライプツィヒはドイツ史における重要な出来事のきっかけを作った町としても知られる。1989年、ニコライ教会で行われていた月曜の祈りが民主化要求デモにつながり、ベルリンの壁崩壊の導火線となった。教会では今も毎週月曜の祈りが続けられている。

ゲーテや森鷗外も通った名物酒場

ドイツ最古といわれるカフェ・バウムの正式名称は「Zum Arabischen Coffe Baum」(アラビアのコーヒーの木)。

古くから通商の交差点として栄えたライプツィヒには、いち早くコーヒーがもたらされ、18世紀前半にはドイツで最古とされる「カフェ・バウム」(現在は閉店中)がオープン。ゲーテやリスト、ワーグナーら錚々たる著名人が訪れ、常連だったシューマンは指定席まであったとか。当時のコーヒー店は演奏会が行われるサロンの役割も果たしており、カフェ文化と音楽は同時に花開き、発展していった。

1525年創業のアウアーバッハス・ケラーの入り口に立つメフィストとファウスト像。

ライプツィヒの歴史的名店といえば、アーケード街、メードラーパッサージュの地下にある「アウアーバッハス・ケラー」(https://www.auerbachs-keller-leipzig.de/)があまりにも有名だ。ゲーテの戯曲『ファウスト』の舞台となったワイン酒場として知られ、旅行者が必ず一度は訪れるスポットとなっている。入り口にはファウストに登場する悪魔メフィストとファウストの像が立ち、店内はファウストに関連するオブジェや壁画が飾られている。ファウストを日本語に翻訳した森鷗外が描かれた壁画もあるので、ぜひ探してみてほしい。

肉巻き「ルーラーデン」と塩とコリアンダーで風味づけしたビール「ゴーゼ」。

メニューには伝統的なドイツ料理やライプツィヒの郷土料理が豊富に揃う。今回選んだのは、前菜・メイン・デザートまで、地元の名物料理が味わえるお得なセットメニュー。

飲み物は、他の町ではなかなかお目にかかれない珍しい地ビール「ゴーゼ」を。食後にはキャラウェイ風味の蒸留酒「ライプツィガー・アラーシュ」で締め、ご当地名物を思う存分堪能した。

すっきりとしたハーブ風味の「ライプツィガー・アラーシュ」は食後酒にぴったり。

美しきバロックの古都、ドレスデン

「エルべ川のフィレンツェ」とも称されるドレスデン旧市街。

とうとうゲーテ街道のゴール、ドレスデンに到着。壮麗なバロック建築群とエルべ川が織りなす風景を前に、感無量になった。ドレスデンを7回も訪れたゲーテも、自著にその素晴らしさを記している。この美しい旧市街の基礎を築いたのは、ザクセン-ポーランド王だったアウグスト1世。アウグスト強王と呼ばれる伝説の王だ。

ツヴィンガー宮殿内アルテマイスター絵画館にある名画『システィーナのマドンナ』(ラファエロ作)。

バロック建築の最高峰と名高いツヴィンガー宮殿やドレスデン城には、ラファエロやフェルメールをはじめとする世界的名画や陶器、財宝など、歴代の王が収集したコレクションがあふれんばかりに展示されている。かつて圧倒的な権力を持ち、栄華を極めたザクセン王国。その遺産が博物館の中だけでなく、屋外のいたるところで鑑賞できる旧市街は、まさに屋根のない博物館のよう。

通常はクリスマス時期に登場するシュトレン。世界中から注文がくるパン店「Dresdner Backhaus」(https://dresdner-backhaus.de/backhaus-stollen/ )で特別に作っていただいた。

ドレスデンは、ドイツ最古といわれるクリスマス市「シュトリーツェルマルクト」も名高い。シュトリーツェルとはシュトレンの意味で、ドレスデン発祥とされるクリスマス菓子。毎年12月に盛大なシュトレン祭りが開かれるなど、町のシンボル的な存在となっている。コロナ禍でクリスマス市もシュトレン祭りも2年連続で中止となってしまったが、来年こそは開催できることを願ってやまない。

必見!ギネス認定「世界一美しい乳製品の店」

まるで宮殿のようなミルク屋さん。隅々までじっくり見学したい。※店内は許可を得て撮影(通常は撮影禁止)

ドレスデンは旧市街ばかりでなく、エルべ川の対岸に広がる新市街にも見どころが多い。なかでも見逃せないのが、ギネスに「世界一美しい乳製品の店」と認定された「Dresdner Molkerei Gebrüder Pfund」(https://www.pfunds.de/)。世界一美しい、なんて言い切ってしまって大丈夫なのか? と思われる方もいるかもしれない(筆者も行く前はそう思った)。だが実際に訪れると、誰もがギネスの判断に納得することだろう。店内に足を踏み入れると、そこには別世界が広がっている。壁も天井もビレロイ&ボッホ社製の装飾タイルでびっしりと埋め尽くされ、美しさに思わず息を飲む。

新鮮なバターミルクの立ち飲みも楽しみのひとつ。

今や観光バスがひっきりなしにやってくるほどの有名スポットとなっているが、本来の乳製品店としての役割も健在。ショーケースには様々なチーズのほか、ヨーグルト、クッキー、キャンディなど牛乳を使用した様々な商品が並ぶ。牛乳石鹸や入浴剤、エコバッグなど可愛いオリジナル雑貨も豊富に揃い、お土産に人気だ。

見て、食べて、飲んで、買って楽しめるドレスデンの牛乳屋さん。ギネスも認めた世界一の美しさを、ぜひその目で確かめてみてほしい。

2階のカフェではザクセン名物のチーズケーキ「アイアーシェッケ」(写真左奥)がいただける。ふんわり優しい味わいは日本人好み。

最後に、ドレスデンで泊まった素晴らしいホテルをご紹介しよう。

かつて官公庁として利用されていたこともあるという、ホテル・ベルビューの中央建物。

旧市街から橋を渡った対岸に位置する「Bilderberg Bellevue Hotel」(https://www.bilderberg-bellevue-dresden.de/)の一番の魅力は、なんといってもホテルの名称にもなっている「美しい景観(ベルビュー)」。ホテルの庭園は、絵画のように美しいバロック地区が見渡せるビューポイントとして知られる。1980年代前半に増築された現代的な建物の設計・施工を担当したのは日本の鹿島建設。その昔、バロック様式で建てられた中央建物との対比が面白い。旧市街と新市街どちらにも行きやすい立地と静かな環境、くつろげる客室と設備、心地よいサービスが揃った良質の宿だ。大人の旅にぜひおすすめしたい。

ドイツ観光局 https://www.germany.travel/en/home.html
ライプツィヒ観光局 https://www.leipzig.travel/de/
ドレスデン観光局 https://www.visit-dresden.travel/

文・写真/坪井由美子 ドイツ在住ライター。旅行、グルメ、文化などの分野において新聞、雑誌、ウェブ媒体で執筆。レシピ連載や食のリサーチも手掛ける食いしん坊。2020年『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)出版。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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