文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/ドイツ在住ライター)

ドイツを代表する文豪ゲーテ(ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)所縁の地を結んだケーテ街道。西部のフランクフルトから東のドレスデンまで、8都市横断の旅に出た。

詩人、作家としてだけでなく、法律家や政治家としても活躍し、天才と称されるゲーテは、恋多きことでも知られ、自身の経験をもとに多くの書物を残している。彼の人生をたどるゲーテ街道は、世界遺産に登録される古城や中世の街並みなど、旅情を掻き立てられる魅力たっぷり。ワイン好きな美食家だったゲーテお気に入りの町々は、おいしい楽しみも満載だ。どんなご当地グルメに出会えるか……こうご期待!

天才ゲーテを生んだ街、フランクフルト

フランクフルトの高層ビルを背景に立つゲーテ像

ゲーテ街道の出発地はフランクフルト。ゲーテは、1749年8月28日の12時の鐘の音とともに、この町で産声を上げた。生家は第2次世界大戦で破壊されてしまったが、市民の熱意で忠実に復元され、現在は「ゲーテハウス (Goethehaus)」(https://frankfurter-goethe-haus.de/)として、隣接する博物館とともに公開されている。

貴重な絵画や書籍がぎっしり並ぶゲーテの家

天文時計や井戸と繋がっているくみ上げ式ポンプ、2000点もの書籍など、当時は珍しかった家具や調度品の数々から、屈指の名家だったゲーテ一家の裕福な暮らしぶりが垣間みられる。

「詩人の部屋」の有名な立ち机(右)

読者にとって興味深いのは、『若きウェルテルの悩み』の初稿が書かれた「詩人の部屋」だろう。ゲーテは立ったまま執筆するのが好きだったそうで、愛用の「立ち机」が展示されている。

ゲーテの好物「緑のソース」と「フランクフルトの花輪」

シュニッツェルとグリューネゾーセ。飲み物はアップルワイン

料理上手な母の影響を受け、ゲーテは食べることと飲むことが大好きだった。とりわけゲーテの好物として有名なのが「グリューネゾーセ」。7種類のハーブにサワークリームやヨーグルトを混ぜたグリーンのソースで、ゆでたじゃがいもや卵にかけるのが定番の食べ方。旧市庁舎が建つ広場のレストランで、ドイツ風カツレツ、シュニッツェルにグリーンソースをかけていただいた。フレッシュな味わいのソースが揚げ物によく合う。フランクフルト名物のアップルワインは、酸味が爽やかで肉料理にぴったり。

旧市庁舎や木組みの家が建ち並ぶレーマー広場

現在は高層ビルが立ち並ぶ金融街のイメージが強いフランクフルトだが、レーマー広場周辺には美しい木組み家屋が多く、中世時代の栄華を忍ばせる風景が残っている。

「新しい旧市街」の美しい建物「Goldene Waage」

かつて戦争によって破壊されたエリアは、長い修復期間を経て、2018年に「新しい旧市街」としてオープンし、フランクフルトの新たな名所として賑わっている。一番美しい木組みの建物といわれる「Goldene Waage」のカフェでは、名物ケーキ「フランクフルター・クランツ」が人気だ。

名物ケーキ、フランクフルター・クランツ

ドイツ語で「フランクフルトの冠」という名のこのケーキは、神聖ローマ帝国時代に載冠式が開催されていたフランクフルトを象徴する銘菓。リング状で王冠の形を、表面を覆うクロカントで金色を、上にのせたチェリーでルビーを表現している。バタークリームを使ったケーキは日本では珍しいので、ドイツでぜひ試してみてほしい。

ゲーテの代表作『若きウェルテルの悩み』の舞台、ヴェッツラー

木組みの家街道にも属する美しい町、ヴェッツラー

フランクフルトから電車で約1時間で到着するヴェッツラーは、ゲーテの代表作『若きウェルテルの悩み』の舞台として知られる美しい町。

1772年、帝国最高法院が置かれていたこの町に、法律実習のためにやってきた23歳のゲーテは、ロッテ(シャルロッテ・ブフ)と出会い激しい恋に落ちるのだが、彼女にはすでに婚約者がおり、ほどなくして失恋。死を考えるほどの精神状態に陥ってしまった。そんな頃、旧友カール・イェルザレムが、人妻との恋愛に悩んだ末にピストル自殺をした、という知らせが届く。この事件をきっかけに、ゲーテは自身の体験を元に『若きウェルテルの悩み』の執筆にとりかかり、本を書き上げることで危機を脱したのだった。

主人公が自殺するという悲劇的な小説は読書界に衝撃を与え、世界中の若者たちの間にウェルテル現象を巻き起こし、ゲーテは一躍有名作家となった。世界文学史上の傑作と称されるこの本は、ゲーテが死を考えるほどの苦しい体験から生まれたのだ。

ロッテの家を案内してくれたゲーテ姿のガイドさん

若きゲーテ(に扮したガイドさん)とともに、ゆかりのスポットをまわった。ゲーテが足繁く通ったロッテの家は、現在は博物館として公開され、本書の各国翻訳版や資料を展示。家具や絵画などから当時のロッテ一家の暮らしぶりを想像することができる。コルンマルクトの一角にあるゲーテが下宿していた家は、現在はレストランとなっていた。

カメラの最高峰、「ライカ」の聖地巡礼

ライカの聖地には世界中からファンが訪れる

ヴェッツラーは、光学産業の中心としても有名だ。カメラファンとして見逃せないのが、「ライカ」の体験ワールド。本社工場、博物館、ショップ、カフェ、ホテルなどが集まる「ライツパーク(Leitz Park)」(https://jp.leica-camera.com/Leitz-Park/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%84%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AF)は、まさに「ライカの聖地」だ。

ライツパークでは、ライカ社員が案内役を務めるガイドツアーに参加することができる。

歴代のカメラやレンズがずらり!

まずはライカワールドのなかでも重要な場所、「ライカギャラリー」へ。小型カメラの原型ともいえる「ウルライカ」に始まる歴代の名機や、ライカカメラで撮影された有名な写真作品を見学。ライカの歴史をたどりながら、世界観を体感。

近未来的な工場はまるで映画のよう

工場ではカメラの製造工程を見学することができる。精密機器を使い、ひとつひとつ手作りされていくカメラ。ファンとしては心震える体験だった。

ケーキが評判のカフェには、ライカのロゴ入りスイーツも

興奮をクールダウンするため、カフェでひと休み。グルメ雑誌で「ドイツのベストカフェ」に選ばれたこともある「カフェ・ライツ(Café Leitz)」は、「世界のベストカフェ」の1つといっても差し支えないだろう。建築美やモダンなインテリアも素晴らしいが、特筆すべきは、専属のパティシエが作るオリジナルスイーツ。味はもとより、ライカのシンボルカラーの赤で統一する演出に、心を鷲掴みにされた。

最後は、楽しみにしていたライカストアへ。ライカ製品の全ラインナップのほか、アクセサリーやおしゃれなオリジナルグッズが並ぶ様は壮観!

興奮必至のライカストアで、カメラのストラップを購入

ライカのエキスパートであるスタッフにアドバイスをもらいつつ、実際にカメラをあれこれ試していたら、物欲が沸騰……うっかり買ってしまいそうになるのを抑え、今回のところは、かっこいいロープ製のストラップだけ購入。ライカ効果は絶大で、真っ赤なライカカラーの紐が付いただけでも気分が上がり、撮影がうんと楽しくなった。

よい写真を撮って、がんばって仕事をして、いつの日か本体を手に入れるためにまたここを訪れよう。そう心に決めて、聖地を後にし、次の町へ向かった。

ドイツ観光局:https://www.germany.travel/jp/
フランクフルト観光局:https://www.frankfurt-tourismus.de/
ヴェッツラー観光局:https://www.wetzlar.de/tourismus
ライカカメラAG: https://jp.leica-camera.com/

文・写真/坪井由美子 ドイツ在住ライター。旅行、グルメ、文化などの分野において新聞、雑誌、ウェブ媒体で執筆。レシピ連載や食のリサーチも手掛ける食いしん坊。2020年『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)出版。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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