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日本各地には多くの湧水がありますが、その中で、何故か名水と呼ばれる水があります。
ただ、美味しいというだけではなく、その水が、多くの恵みをもたらし、人々の命に深く関わり、生活を支えてきたからに他ならないからでしょう。それぞれの名水からは、神秘の香りと響きが感じられます。名水の由来を知ることは、即ち歴史を紐解くことであり、地域の文化を理解することでもあります。
名水に触れ、名水を口にすれば、もしかすると、古の人々の想いに辿り着くことができるかもしれません。
歴史ある水を訪ね古都を歩きます。


今回の「古都の名水散策」では、京都市内の由緒ある数多くの名水の中から、名水百選にも選定されている京都・伏見の「御香水」をご紹介いたします。豊臣秀吉や徳川家康にも縁のある御香宮神社というお社の境内に湧き出す水で、その由緒は平安時代にまで遡るとのこと。
故事によれば、四方に良き香りを放ち、病人がこの水を飲むとたちどころに病が治癒したという伝説を持つ霊水であります。そんな「霊験灼然」(れいげんいやちこ)なる霊水を取材してまいりました。

御香水の石碑と石組の井戸

京都・伏見は銘酒処、豊富な地下水が清酒の一大産地を支える

今回の取材地伏見は、京都市の南東部に位置する京都市内で最も人口の多い行政区です。桂川、宇治川など主要な河川が流れており、古くから伏見港などを中心に水運の拠点として発展してきました。
かつては、良質な地下水が豊富な地域であったことから「伏水(ふしみ)」と表された時代もあったとか。その地下水を活かして酒造りが盛んで、全国の清酒生産量の10%以上をしめる一大生産地です。

酒造りの盛んな伏見には、大きな酒蔵が立ち並ぶ

ですから、京都・伏見と聞いたら、先ず「お酒」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
伏見での酒造りの歴史は古く、一説には弥生時代に始まっていたといわれています。秀吉による伏見桃山城の築城以後、城下町が繁栄するとともに、酒造りも一層盛んになったようです。
伏見の地層は、花崗岩によって形成されており、その地層を通り抜けた地下水にはマグネシウムやカルシウムなどの成分がほどよく含有されており、酒造りに適した中程度の硬水。そのため、発酵がゆっくりと進み、なめらかできめ細かいお酒に仕上がるそうです。酒造には、原料処理水や仕込み水など多量の水を必要とするようですが、驚くことに、伏見の酒造メーカーでは、今でも酒造用水のほぼ全量を地下水で賄っているそうです。

民謡「黒田節」は伏見が発祥の地

良き香りが漂ったという名水「御香水」とは、如何なる名水だったのか

伏見は、奈良と京都との中間に位置しており、しかも風光明媚な地であったため、古より天皇や貴族の別荘地であったようです。そのことが、万葉集の歌にも次のように詠まれています。

「巨椋の入江響むなり射目人の伏見が田井に雁渡るらし」

今回、ご紹介する名水「御香水」は、秀吉が隠居城として建てた伏見城のある桃山の麓にある御香宮神社(ごこうのみやじんじゃ)境内に在ります。御香宮神社の由来によると、平安時代初期までは御諸(みもろ)神社と呼ばれていたそうです。「御諸」とは、神の籠る「御森(みもり)」が転じてついた名前だそうで、つまり神が鎮座する森という意味があるようです。
貞観4年(862)、神社の改築をした際、境内より四方にゆきわたるほど良い香りのする水が湧き出したとか。病人が、その水を飲むと病が治癒したので、時の清和天皇に献上したところ「御香宮」の名を賜ったというのが起源だそうです。この良き香りを放つ「御香水」には、幾つもの逸話が伝承されています。

御香宮神社の由緒が記された金属製の説明板

その一つが、日本名所風俗図絵(地誌)に載っている、何ともユーモラスお話なのでご紹介いたします。
「一人の猿使いが、御香宮神社へ来た時のこと、その猿回し、病なのか長旅の疲れなのか、息も絶え絶えの状態だったそうです。その事を察したのか、芸を仕込まれた猿が、御香水をすくい猿使いの口に注いだというのです。
すると、不思議なことに、猿回しは元気になった」という不思議なお話です。

信憑性の高い話としては、徳川家康の孫娘千姫や、徳川御三家の祖となった徳川義直(家康の九男で、尾張徳川家の祖)、頼宣(家康の十男で、紀州徳川家の祖)、頼房(家康の十一男で、水戸徳川家の祖)が誕生した際の産湯に使ったとされています。
それにしても、四方に行きわたるほどの“良き香り”とは、どのような香りであったのでしょうか? その匂いの方に、興味が湧いてきます。

伏見は名水の宝庫!太閤秀吉も伏見城内に「金名水」「銀名水」を掘り当てた

伏見は、京都市内でも名水の多い場所として知られていますが、中でも美味しい水として「伏見七名水」と呼ばれる井戸が在ります。江戸時代に刊行された地誌『山城志(やましろし)』にも紹介されました。当時「伏見七名水」と呼ばれていたのは、御香水、春日井、苔清水、白菊井、竹中清水、田中清水、常盤井なのですが、場所がわからなくなったり、枯れてしまった井戸もあるようです。別の機会に、改めて他の名水も取材をしたいと思います。

伏見城の跡地付近に、模擬天守閣が立っている

さらには、太閤秀吉は伏見城を築いた際、城内に「金名水」「銀名水」という名井を掘り当て、千利休らと茶の湯を楽しんだというエピソードまで残っているとか。それほどまでに、美味しい地下水が豊富という証なのでしょうね。
実は、御香水も明治時代に一度枯れてしまった時期があったそうですが、昭和57年(1982)に井戸を深く掘削することで復活しました。そして、昭和60年には環境庁の名水百選に選ばれました。

伏見は、平安時代から幕末、明治維新に至るまで、長きにわたる時代の風情が町並みの中に感じられます。伏見の名水と酒蔵を梯子しながら、城下町、門前町、港町の趣を楽しんでみるのは如何でしょうか?

復元された幕末の舞台にもなった旅籠「寺田屋」

周辺の観光施設

・明治天皇陵
明治天皇陵は、かつて豊臣秀吉が築いた伏見城の本丸跡地にある。この地に墓所が営まれたのは、明治天皇の遺言によるものとされています。すぐ東には皇后である昭憲皇太后の伏見桃山東陵が隣接しております。

所在地・最寄り駅、交通手段

・京阪電車 京阪本線 伏見桃山駅(ふしみももやまえき)
・近鉄電車 京都線 桃山御陵前駅(ももやまごりょうまええき)
・JR西日本 奈良線 桃山駅(ももやまえき)

取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
京都メディアライン:https://kyotomedialine.com
Facebook:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

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