日本は島国であるとともに、国土の大半が山地であり山国でもある。山地に降った雨は、川となり海へと流れる。一部の水は地下にしみ込み、やがて伏流水として各地で湧き出す。湧き出た水は、人々の生活を潤し、その地域の文化を育んできた。恵をもたらした湧水は、逸話と共に名水として語り継がれている。そんな名水を求め各地を訪ねます。

古都の名水散策 第3回目は、近年「日本三大 天空の城」の一つとして有名な越前大野城がある福井県大野市を訪ねました。大野市は、市内に20か所以上もの湧水地が点在する“北陸の水の城下町”としても有名であり、「水の郷百選」にも選出されています。今回は、大野市の数ある湧き水の中から、日本名水百選の一つ「御清水(おしょうず)」を取り上げ紹介いたします。

大野城

■戦国時代の町づくりが、今に残る城下町

越前大野市は、福井県東部に位置する人口3万人ほどの小さな城下町です。大野市の歴史年表によると、大野市の始まりは、戦国時代の武将である金森長近(かなもり ながちか:1524年〜1608年)が領主となった天正3年(1575)に遡ります。織田信長から、一向一揆制圧の褒賞として大野の地が与えられて以降、町として発展を遂げてきました。金森長近による町づくりは、長近が飛騨国高山へ転封となる10年間に渡り行われました。当時整備された大野城を中心とした碁盤の目の町並や市内各所に残る数多くの史跡・文化財は、大野市の歴史観光資源として大きな魅力となっています。

金森長近の像

■水に歴史あり、豊富な湧き水が町づくりに生かされる

大野は古くから湧水が豊富な町で、金森長近が城下町を整備した頃から、戦国時代としては珍しい上下水道が整った町づくりがされたとのことです。古来より、人々は湧水のことを「清水(しょうず)」と呼び大切にしてきています。現在でも、中心市街地の各家庭には自家用ポンプが設置され、飲用や炊事用、あるいは風呂やトイレ、洗濯、洗車など生活に必要な水全てが地下水で賄われているそうです。その割合は、なんと7割に達すとのことで、世界でも稀有な天然の循環システムをもつ名水地であります。

こうした湧き水の豊富さと美味しさは、大野周辺の3つの地形的な特徴が大きく寄与しています。一つ目が、日本百名山の一つでもある荒島岳をはじめとして、白山山系の1000メートルを超える山々に囲まれた盆地であること。 二つ目が、南から北へ流れる九頭竜川の支流、真名川、清滝川など一級河川をはじめとする中小河川によってつくられた扇状地であること。そして三つ目の特徴が、地下100〜200メートルの地盤が硬い岩盤質あり水を通しにくく、その岩盤の上に堆積した小石や砂が砂礫層を形成していること。これらの条件が重なり、豊富な水を蓄え潤沢な湧き水を育んでいるわけです。

また、近年の水循環の解析によると、三つの地形的な特徴に加え、水田耕作地から浸透した水も地下水位に大きく影響を与えていることも分かってきています。

■水文化の町、越前大野市の象徴“御清水” 

大野の湧き水の中でも、特に有名なのが日本名水百選にも選出されいる「御清水(おしょうず)」です。「御清水」お殿様のご用水として使われていたことから、別名“殿様清水”とも呼ばれています。「御清水」は、“水文化の町”大野市の象徴的な湧き水であり、大野城跡に次ぐ観光スポットと言っても良いでしょう。

かつて、この「御清水」は、武家屋敷の住人によって厳しく管理されたとされ、上流から飲料水、果物を冷やす場所、野菜などの洗い場、洗濯場と細かな定めがあったようです。現在でも、その風習は人々によって受け継がれ水を大切にする文化として、市民の意識の奥底に根付いているとのことです。

「御清水」は、昭和60年に名水百選に選ばれ、周囲は公園として整備がされていますが、このような澄んだ水を中心とした町づくりがされていることからも、大野の水文化の深さを感じることができました。

「御清水」以外にも、平成20年には平成の名水百選として「本願清水(ほんがんしょうず)」と呼ばれる湧水地も観光地として有名です。「本願清水」は全国でも数ヶ所しかいない陸封型イトヨの生息地で、国の天然記念物に指定されています。併設されている「本願清水イトヨの里」は、淡水型のイトヨ保護と水環境の保全啓発を目的とした学習施設にもなっています。

■名水を使用した地場産品

・地酒
七間通りに在る、ひときわ目を引く店構えの「南部酒造場」を訪ねてみました。「花垣」の銘柄が有名なこの酒蔵では明治時代からずっと、地下水で酒を仕込んでいるとのことです。蔵の前には、「七間清水」という清水があります。

・お蕎麦
同じく七間通りに在る、手打ちそば処 七間本陣で福井県ならではのおろし蕎麦をいただきました。たっぷりのネギとかつお節をかけて、おろしが入った汁で食べる福井スタイル。ほどよい辛味で、あっさりしているので何杯でも食べられそうです。

■名水に関する行事

・越前大野名水マラソン(例年5月に開催)
大野市・大野市教育委員会・大野市体育協会等が主催によるマラソン大会。市内を巡るコースでは、沿道の各名水給水所において地域ボランティアが清らかな地下水でランナーをサポートしています。

・水質保全活動
1985(昭和60)年頃から、地元住民が中心となる「御清水の会」が結成されて、湧水の水位観察や周辺清掃活動など継続的な美化活動が行われています。

■アクセス情報

「御清水」〒912-0086 福井県大野市泉町5−4
「本願清水」〒770-0048 徳島市加茂名町庄山の一部 西部公園内

取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
京都メディアライン:https://kyotomedialine.com 
Facebook:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

 

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