昨年11月、キリンビールではウイスキーの操業50周年を迎えた。ウイスキー造りにはブレンダーの存在が欠かせない。マスターブレンダー(※ ブレンダー業務の最高責任者。)として活躍する田中城太さん(61歳)の一日を追った。
マスターブレンダー田中城太さんの一日
田中さんは横浜にある研究所に席を置くが、週に一度は富士山の麓に立つ富士御殿場蒸溜所へ赴く。この日は蒸留所での作業。午前中はブレンダー室に籠った。
10時〜 ブレンダー室でテイスティング
「定期的に、樽詰め前の蒸留液や熟成中の原酒、前月に完成した製品の官能評価をブレンダーチームで行ないます。私たちの理想とする香味特長とその評価基準をすり合わせ、目標とする香味の方向性を決める。ブレンダーとして重要な作業です」と田中さんは話す。
商品開発の際は、多彩な原酒を組み合わせ、思い描いた作品になるまで情熱をもって何度でもテストブレンドを繰り返す。
13時〜 蒸留管理室で発酵状況の経過確認
13時30分〜 屋上へ向かいひと休み
情報交換も仕事の一環
昼食時は、持参した弁当を休憩室で食べながら製造担当者らと情報交換。午後は、発酵中と蒸留中の状態を自らの目で確認する。
14時〜 ポットスチルの中を確認
14時30分〜 木桶発酵槽の中を確認
「常日頃から、製造状況を把握するようにしています。また、プロモーションも私の務め。特別見学のお客様対応もします」と話しながら、田中さんは樽貯蔵庫へ向かった。樽から取り出した原酒をこの日訪れた客に差し出しながら、笑顔で原酒の未来を語る。
15時〜 樽庫に客を案内してテイスティング
17時〜 熟成庫で樽の状態を確認
営業担当者との交信も日常的に行なう。終業後、彼らから届く「売り上げ好調」のメールを確認し、目を細めながら帰途に就く。マスターブレンダーの仕事とは、ウイスキー造りの総指揮者。想像以上に多岐にわたるものだった。そして、全社員から“城太さん”と呼ばれ親しまれるマスターブレンダーの愉しみは家での晩酌。チーム一丸となってつくり上げた美酒を嗜み、一日は締めくくられた。
18時〜 お気に入りのつまみで晩酌
キリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所
静岡県御殿場市柴怒田970番地
電話:0550・89・4909
営業時間:9時〜16時
定休日:月(祝日の場合は営業、翌日休館)
交通:JR御殿場駅よりシャトルバスで約20分
※ショップなどの施設利用は無料。見学ツアーは要予約。500円。
https://www.kirin.co.jp/experience/factory/gotemba/
取材・文/安井洋子 撮影/福田栄美子
※この記事は『サライ』本誌2024年3月号より転載しました。