北陸の老舗蒸留所を訪ねる｜三郎丸蒸留所（富山）【ジャパニーズ・ウイスキー新時代】
地元の高い技術と素材を採用し、歴史ある蒸留所を蘇えらせた
北陸で唯一のウイスキー蒸留所が富山県砺波（となみ）市にある。マスターブレンダーは地元の酒蔵、若鶴酒造５代目の稲垣貴彦さんだ。若鶴酒造は文久２年（1862）創業の老舗の酒蔵。清酒造りの傍ら、昭和27年（1952）にウイスキーの製造免許を取得し「サンシャインウイスキー」の製造を手がけてきた。しかし施設は次第に老朽化し、生産が止まることもあった。
東京のＩＴ企業に勤めていた稲垣さんが、家業を継ぐため砺波に戻ってきたのは平成27年（2015）のことである。稲垣さんはそのときの様子をこう語る。
「蒸留所の建屋の傷みは激しく、設備も古いので全面的に改修する必要がありました。ウイスキーの造り方もメモが３枚あるのみで（笑）、まったく手探りの状態から始めました」
稲垣さんはクラウドファンディング（※インターネットを通じて呼びかけ、資金調達を行なう仕組み。）で寄付を募り、蒸留棟と設備を改修した。会社のある地名にちなみ「三郎丸蒸留所」と名付け、平成29年（2017）にウイスキー事業の再スタートを切った。従来の蒸留器を改造し、マッシュタン（糖化槽）を入れ替え、樽に富山のミズナラを使うなど設備を一新し、見学施設も整えた。
高岡銅器で蒸留器を製造
令和元年（2019）、蒸留器を世界でも初となる鋳物製に入れ替えた。稲垣さんが設計し、地元の高岡銅器の梵鐘メーカーである老子製作所に製造を依頼した。
「蒸留器の納入に２年かかるといわれまして、それなら自分で作った方が早いと」（稲垣さん、以下同）
老子製作所の屋号「老子次右衛門」から「ＺＥＭＯＮ（ゼモン） 」と命名された蒸留器は、日英で特許を取得した発明品である。本体は銅と錫の合金で、錫は酒をまろやかにする効果があるとされる。鋳物製なので鋳型があれば短期間で作れ、従来の蒸留器に比べると耐用年数も長いという。昨年、岐阜県で稼働を開始した飛騨高山蒸溜所にも「ＺＥＭＯＮ」が導入されている。
2017年に仕込まれたウイスキーは、2020年より徐々に出荷され始めた。「三郎丸」を冠したシングルモルトは、代々続くスモーキーな味わいで、予約を開始するとすぐに売り切れてしまう人気ぶりだ（現在、入手は困難）。
「砺波に戻ったとき、50年前に祖父が仕込んだシングルモルトが少し残っていたのです。飲むとすごくおいしい。ウイスキーとは半世紀経って、孫の世代に蘇えるものだと感じ入りました。それがウイスキー造りの原点になりました」
三郎丸蒸留所
富山県砺波市三郎丸208
電話：0763・32・3032
交通：JR城端線油田駅より徒歩すぐ。
見学要項：
ガイドなしの自由見学は当日に受け付け／10時～14時30分、15時閉場。1300円。
ガイド付きの見学は下記サイトより予約／（１）10時40分（２）13時20分（３）14時30分、（３）は土曜・日曜・祝休日のみ 見学時間約60分。4000円。https://www.wakatsuru.co.jp/reserve/index.php（見学予約サイト）
※この記事は『サライ』本誌2024年３月号より転載しました。
