取材・文/小坂眞吾(サライ編集長)
『サライ』10月号でも既報のとおり、落語家の桂三木男さんがこの秋、真打に昇進し、五代目桂三木助を襲名しました。(「落語界の大名跡が復活!三代目桂三木助の孫が五代目を襲名」)
「桂三木助」といえば、三代目は志ん生、圓生、小さんと同時代に活躍した「昭和の名人」のひとり。四代目は三代目の長男で、落語界にとどまらず、俳優、タレントとしても活躍し、マスコミ界の寵児となった人物。そんな大きな名跡を、33歳で継ぐことになった五代目は、三代目の孫であり、四代目の甥にあたります。
昇進襲名披露興行は9月21日から、上野・鈴本演芸場、新宿・末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場の順で、それぞれ10日間、計50日間にわたって行われています。
9月25日の夜に、私も鈴本に出かけました。
恒例の襲名披露口上に、三遊亭金馬、鈴々舎馬風、林家木久扇、柳家権太楼、落語協会会長の柳亭市馬と、協会のお歴々がずらりと並ぶ光景は圧巻ですが、面白いのはその中に一世代若い柳家花緑が入っていること。
花緑は、祖父が人間国宝の五代目小さんで、叔父がいまの六代目小さん。つまり、三木男改め五代目三木助と、まったく同じなんです。そればかりじゃなく、互いの祖父、五代目小さんと三代目三木助は同じ小林姓で、義兄弟の契りを交わした仲。さらに……と、ここから先は長くなるので、知りたい方は花緑の口上を聴いてください。
トリを勤めた五代目三木助の演目は、なんと『へっつい幽霊』。三代目が、いまや伝説となった『芝浜』以上に得意とした噺じゃありませんか。幽霊のキャラクターなどはもっと追い込む余地がありそうですが、噺のところどころにふと、三代目の口調を彷彿させます。
三代目の全集『CDブック完全版 三代目桂三木助 落語全集』(小学館)を作るため、三代目の音源を繰り返し聴いた身としては、背筋がゾクゾクする一席でした。
そして注目していただきたいのは、披露興行のあいだ、ずっと背景に掛けられている「後ろ幕」。じつは、五代目三木助の後ろ幕は、三代目のCD全集を作らせていただいたご縁がもとで、サライ編集部から贈らせていただきました。
ですから幕の向かって左に「小学館サライより」の文字が入っています。
一雑誌が落語家の披露目に後ろ幕を贈るのは、私の知る限り、林家彦いちに『ビーパル』が贈って以来のこと。
客席から『サライ』の文字を見ながら、落語の歴史に少しだけ「コミット」したような、不思議な喜びを覚えました。
* * *
落語協会ではこの秋、三木助のほかに柳亭こみち、古今亭志ん五(志ん八改め)と、3人が真打に昇進します。襲名披露興行も、3人の日替わりとなります。
五代目の披露目に立ち会いたい(もしくは、サライの名入り後ろ幕を見てみたい)、という方は、各演芸場のホームページで、三木助の出演予定をご確認のうえ、お出かけください。
【襲名披露興行の日程】
■9月21日~30日:鈴本演芸場/夜の部
■10月1日~10日:新宿末廣亭 /夜の部
■10月11日~20日:浅草演芸ホール/昼の部
■10月21日~30日:池袋演芸場/昼の部
■11月1日~10日:国立演芸場
*新真打3人が日替わりでトリを勤めます。五代目桂三木助の出演日ほか詳細は各演芸場へお問い合わせください。
【小学館CDブック 完全版 三代目桂三木助 落語全集】
昭和29年に芸術祭奨励賞受賞の『芝浜』から『へっつい幽霊』『宿屋の仇討うち』『大工調べ』『崇徳院』、三木助最後の録音となった昭和35年の『三井の大黒』等、全46の音源を収録する。化粧箱入り、CD16枚+B5判、上製本138ページ、価格:本体3万円+税。 問い合わせ先:小学館(電話:03-5281-3555)※こちらから試し読みできます!
取材・文/小坂眞吾(サライ編集長)