サライ9月号で「9月30日発売」とアナウンスしながら、諸般の都合で「10月9日発売」に繰り延べになった落語CDブック『人形町末広 圓生独演会』。ただいま、大詰めの最終確認をおこなっています。

三遊亭圓生 首提灯 338−15 金子桂三

↑昭和35年、人形町末廣の圓生の高座。撮影/金子桂三

このセットは、圓生が伸び盛りの昭和30年~44年にかけて、今はなき名席・人形町末廣で開いていた独演会の音源をCD16枚に収めたものです。そして23席すべてが初CD化、そのうち9席は初商品化、いわゆる「蔵出し」です。

人形町での独演会をお客として実際に見聞きした皆さんは、現在80歳前後。今回はそうした方々に、書籍への寄稿をお願いしました。そのひとりの山本進さん(芸能史研究家)をはじめ、誰もが口を揃えていうのは、この独演会こそが「戦後の落語史上、最高の上り坂の芸」だったこと。圓生のCDやDVDは、芸が完成した70歳代のものが多く、それはそれで素晴らしいのですが、落語の世界には「芸は上り坂を聴け」という格言があります。このセットでは、圓生のまさに「上り坂の芸」を堪能していただきたいと思います。

このようなCDつきの落語企画では、編集担当の私もひとつの音源を5、6回は聴きます。会社では、電話や打合せで噺に集中できないので、自宅で聴くことになります。平日は帰宅したあと、家族も寝静まる丑三つ時に。土日は家族が出かけた白昼堂々、もうマラソンのように延々と聴くわけです(ちなみにこの行為にたいして、会社から残業代とか休日勤務手当とか、お見舞い金とか、それに類するものはまったく出ません)。

このセットはCD16枚計1089分、約18時間ですので、5回聴くとじつに90時間。ふつう、同じ人の同じ音源をこんなにも聴き続けたらどこかで飽きるはずですが、不思議なことに今回は、聴く度に新たな発見があり、同じところで笑い、まったく苦痛には感じませんでした。

圓生独演会CDブックWKTK8566 のコピー

↑CD収録の独演会音源はすべて、圓生が自ら録音したテープからデジタル・リマスターした。各テープの箱書きの文字は、圓生の自筆。

しかも、ふだんは落語にまったく関心のない愚妻までが、いつの間にか脇で聴いていて、「この人、上手いわねえ」と感心しているではありませんか。私自身、落語家としては志ん生、文楽、正蔵(彦六)が好きで、圓生はその次だったのですが、この音源を何度も聴くうち、圓生ならではの巧さがわかったように思います。この人、本当に名人なんだと認識を新たにしました。
口跡がはっきりしていて、わかりにくいことはうまくかみ砕いて話すので、いわゆる「落語通」でなくても面白さが伝わりやすいのでしょう。人形町という場所柄、お客の反応がすこぶる良く、高座と観客の一体感が味わえるのも、聴きやすさの一因かもしれません。

このセット、真性「落語通」向きということで、じつは少部数しか作りません。予定数以上のご注文をいただければ、増刷(追加生産)をいたしますが、その場合、ご購入に少々おひまをいただくことになります。お早めのご注文が吉と存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。

『落語CDブック 人形町末広 圓生独演会』

http://www.shogakukan.co.jp/books/09480127

『落語CDブック 人形町末広 圓生独演会』
編集担当 兼 『サライ』編集長
小坂眞吾

 

 

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