お金の無心が和解のきっかけ。頼られたことが何よりも嬉しかった
就職では地元に戻ることなく、東京へ。仕事を理由に実家には年に1度帰るかどうか、就職してからは6年間帰らなかったこともあったとか。両親と上辺だけの関係を続けていた久美子さんですが、父方の親族のある出来事がきっかけで、その関係性は変わっていったそうです。
「叔父がやっていた事業がダメになって、借金を抱えました。弟のことが大好きな父親はさまざまな親族のところにお金を借りるのを手伝っていたんです。父親の名義で消費者金融にもお金を借りたみたいで。父親からの久しぶりの連絡は、私へのお金の無心でした。その連絡をもらって、私はすぐに実家に帰りました。そこで父親は私に頭を下げたんです。自己中心的で低姿勢な態度なんて一切取らなかったあの父親が。
その後、私は数百万ですが、ギリギリ自分が生活できるお金だけ残して、貯金の全額を父親に渡しました。家族が困っていたからという思いももちろん少しはありましたが、頼られたことでやっと父親から一人前だと認められたと思えたんです。お金が無くなっていて親族が大変な時におかしいかもしれませんが、私は少し嬉しかった。やっとちゃんとした家族の距離感になれた気がしたから」
久美子さんの帰省は今も年に1~2度と当時とあまり変わっていないと言いますが、居心地は当時とだいぶ違うようです。
「私から頼ることは相変わらずできませんし、今も家族との裸の付き合いもできないまま。でも、あれから父親はお酒が入ると私のことを褒めるんだそうです。父親も私も単純な人間ですよね。そこは遺伝してしまったんでしょうね」と笑顔で語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。