理容師を目指した時、両親の姿を想像すると不安は一切浮かばなかった
進路を決める時期に入り、栞さんは大学受験を断念。英語という目標を失ったことで、大学受験に意味を見出せなかったそう。しかしそのことを聞いて、両親は反対したと言います。
「私は在学中に英語は楽しく話せたらいい、英語を楽しみたいという思いしかないことに気づきました。今までは漠然と英語の仕事に就けたらという思いはあったけど、実際に勉強したことでその思いは完全に無くなりましたね。そんなフワフワした思いなのに、4年もさらに勉強することに意味がないんです。それに、他に4年もかけて勉強したいことなんて、当時の私にはなかった。そのことをそのまま両親に伝えたところ、両親は反対しました。あんなに勉強を頑張って掴んだ英語への道を諦めてほしくなかったみたいで。そして、両親ともに専門学校卒なので、子供には大学を出てほしいという思いもあったようでしたね」
その後、改めて自分の進路を考えた時、ふと浮かんだのは、忙しくも楽しく働く両親の姿だったと言います。
「大学受験をやめた時、母親はさまざまな専門学校が載っている本を買ってきてくれたんです。それを見て、専門学校への進学を考えたんですが、何を見てもしたいことが見つからなくて。そんな時に両親の職業について初めて考えてみました。今まで身近すぎて理容師という職業は対象にも入っていませんでした。でも、理容師については不思議と漠然とした不安がなかったんです。働くようになったらといったビジョンが明確に想像できたというか。
その後、美容や理容の学校の見学にいくつか行き、専門学校の理容科に進学することを決めました。決めた時も両親は喜んでくれることなく、『私たちのことを見ていたら辛いのはわかってるよね?本当にいいの?』といった感じで、喜んではくれませんでしたね」
栞さんはその後理容師の資格を取り、両親のお店とは違うところで働いています。昨年2つ下の弟も理容師の専門学校へ進学。その時に両親と進路について話す機会があったそうで、「母親から『理容師を目指すと言われた時は驚いたし、心配もしたけど、私たちの仕事のいいところも見てくれていたんだと思って嬉しかった』と言われました。嫌な先入観なんて一度もなかったのに、本当に心配症ですよね。実は私と今弟が通う専門学校は両親が卒業したところ。さらには私と弟の担任は両親の同級生なんです。2人ともまったく同じ道に進んでいるんです」と笑顔で語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。