もともと関西でマンション暮らしをしていたOさんご夫婦。住み慣れた環境はそれなりに快適だったが、年齢を重ねるにつれ、「自分たちらしく暮らしたい」「もっとゆっくりした時間を過ごしたい」という気持ちも大きくなってきたという。
そこで2014年に、奥様の実家のある石川県へ移住しようと決意。かくして家探しがスタートしたのだった。
それ以前から建築雑誌を愛読していたご夫婦は、山小屋のような家や、平屋の建物に興味を持っていた。そこで希望に見合う物件を、新築と中古リフォームから探すことにした。
すると、利便性もよい金沢の街なかに「改修するとおもしろそうだなぁ」と思える、ちょうどよい広さと価格の中古物件が見つかった。
とはいえ、改修を依頼すべき建築家の心当たりはなかった。いろいろ調べていく過程で、建築家とのマッチングサービスを提供しているアーキテクツ・スタジオ・ジャパン金沢スタジオにたどり着いた。会員登録し、検討中の土地(中古物件)があること、1年後には入居していたいことなどを伝えたOさんご夫婦は、「キッチンの使い勝手をよくしたいので、女性の建築家を探したい」「スタイリッシュ過ぎない、素朴な味わいのある建物が好き」といった細かなリクエストも加えた。
その結果、紹介されたのが建築家の稲澤理代さんだった。しかも、会員登録の4日後に顔合わせをするというスピード感である。稲沢設計室を訪れた時点で、ご夫婦はなにかを感じ取ったようだ。好みや価値観に共通点も多く、意気投合。迷うことなく、稲澤さんに設計監理を依頼したという。
「余談ですが、ともバドミントン競技者だというご夫婦にとっては、私がバドミントンをしていたことも大きな理由となったようです。たしかに趣味や嗜好の共通点は、絆を強くするものですよね」(稲澤さん)
「築100年以上のぼろぼろの民家がどう変わるのか? 改修後を想像できなかったので、好みが似ている稲澤さんに設計はほぼお任せでした」と、ご夫婦は当時を振り返る。とはいえ新居と仮住まいが近かったこともあり、Oさんご夫婦は工事中もほぼ毎日現場に足を運んだ。
「希望を伝えることも含め、家ができてこないとわからないこともあるので、現場に足を運ぶのは大事だと思いました」とご主人。奥様も、「施工会社に任せすぎないで、疑問に思ったことは聞いたり現場に行ったりした方がいいと思いました。どういったところで職人さんが工夫してくれているのかがわかり、より一層、家に愛着が湧きました」とおっしゃる。
そんなOさんご夫婦は、工事費を抑えるために、内部の床や壁、建具の塗装、壁の漆喰塗りを、稲澤さんの力を借りながら自分たちで行なった。大変だったとはいえ、空間づくりに携われたことはいい経験になったようだ。「これからも、いろいろDIYしながら家づくりをしていきたいと思います」と奥様。
“純和風”はあまり好きではなかったため、どうなるか心配もしていた。しかし、できあがった家は、和風のよさを残しつつ、洋風の雰囲気も持つ、独特の雰囲気。とても気に入っているそうだ。
「覚悟はしていましたが、築100年以上の民家なのでやっぱり寒い(笑)。でも、寝室とトイレ・洗面室・脱衣所は、断熱処理をしていただいたので快適です」
「マンションと違って、メンテナンスの面で一軒家の大変さを感じていますが、工夫のしがいがあります」
そんな、さまざまなことを感じつつここでの生活を始めたおふたりのお気に入りの場所は、書斎・洗面室・縁側だという。
「心落ち着く、和の“低さ”がとても気に入っています」「雨風の音などはあまり気にならず、静かに過ごせています」とご主人が話せば、「コンパクトに動線が整理されているので、動きやすく実用的」と奥様もうれしそうに語る。
看板猫の小太郎くんも満足な様子。
2015年12月以来、住宅の一部を使ってカフェを経営している。路地裏にある隠れ家のような雰囲気、ご主人の選ぶ音楽、おいしい食事やコーヒーで安らげる空間。古い民家を改築した「街中の空と風」は、ご夫婦の住まいとしてだけでなく、近隣の方(と猫たち)の憩いの場としてもこの地に根づく。
建築家:稲澤理代
http://www.asj-net.com/archite
施工:ASJ金沢スタジオ
http://event.asj-net.com/publi
【この建築事例に関するお問い合わせ】
アーキテクツ・スタジオ・ジャパン(http://www.asj-net.com)
電話:03-6848-9500
文/印南敦史
取材協力/アーキテクツ・スタジオ・ジャパン