都会のマンションで心地よい和の空間を実現するリフォーム3つのポイント

Photo©鈴木久雄(左)、Photo©平井広行(中央、右)

談/岸和郎(建築家)

いま都市のマンションで暮らすことを選ぶ高齢者が増えています。

年齢を重ね、子供も巣立って夫婦ふたりきりの暮らしになると、駅から遠い郊外の広い戸建てに住むのがだんだんしんどくなってきます。家のサイズもさることながら、都市の集合住宅のほうが、買い物にもどこかに出掛けるのにも便利、防犯や何か健康上のトラブルがあったときにも安心、さらに構造上、鉄筋コンクリートのマンションのほうが木造の一戸建てよりも暖かいのです。

ただマンションというと、住空間として画一的かつありきたりで面白みがないとか、広い庭がないから息苦しいとかのイメージが先行して、ホンモノの空間なんてできない、無理だと諦めている人が多い。でもそんなことはありません。高層階の古いマンションでも、適切にリフォームやリノベーションを施すことで、心地よい日本的なテイストを背景にした現代的で心地よい空間を実現できるのです。

日本の一般的なマンションには小さな和室がついていますね。さらには小さな茶室をほしがる人もいます。それらを「和」と言ってもいいのですが、もっと違う「和」のスタイルもあると思っています。それはモダンで快適な空間に住みたいという希望と、美しい日本の伝統を享受したいという希望を一緒にかなえてくれるような住空間です。

和とモダンデザインの二者択一ではなく、あるいは最近流行の「和モダン」テイストでもなく、建築とインテリアと家具と、そして室内を彩る花やオブジェクトなどの“しつらえ”とを統合した、日本ならではの新しいライフスタイルです。私はそのコンセプトを「ニュージャパンスタンダード」と呼んでいます。

ではどんなところに気を配れば、地上30階のマンションでも心地よい和の空間を実現できるでしょうか。以下に、私が考えている3つのキーコンセプトを、ポイントごとにかいつまんでお話しましょう。

■1:小さな窓で内と外をつなぐ

日本家屋は、内部空間と外部空間(庭)の間に、縁側という空間があります。「イン・ビトゥイーン」つまり「つなぎの空間」で、家の内にいても外を感じさせるという日本建築の特徴であり、住空間に心地よさをもたらしてくれる重要なポイントです。

残念ながら一般的なマンションで、このような内と外をつなぐ空間を実現している部屋はそうありません。でも、たとえば高層30階に住んでいたとして、窓を小さく切って部分的に遠くの緑を少し見せるだけで、外を感じさせることができます。京都なら御所、東京なら皇居の緑がみえてもいい 少し切り取られて緑が見えるだけで「つなぎの空間」が生まれるのです。

Photo©小川重雄

あるいは、部屋の中に花瓶をひとつ、お花を一輪さすだけでも、外を感じられます。たとえば下の写真は私が都内で改装したマンションの一室ですが、倉俣史朗さんの花瓶をひとつ置き、花を指しています。これでも内と外。これなら地上30階でも展開できますね。

Photo©鈴木久雄

マンションに、ちょっとしたバルコニーがあれば、そこに緑をおいて小さな開口部をあけるだけでいいのです。

■2:暗いところを上手につくる

谷崎潤一郎の「陰影礼賛」を俟つまでもなく、いつのころからか日本人は、とくに昭和の頃から、「影のない明るい空間がいい」という価値感のもと、そういう住空間ばかりに慣れ親しんできました。けれど明るさというのは、暗さがあってこそ感じられるものなのです。

だから光を感じたければ、暗いところをつくればよいのです。どこか暗いところがあるほうが、気持ちも落ち着きます。明るいところと暗いところをそれぞれ作ってあげると、見えてくるものがあります。

Photo©平井広行

窓だって、明るくて大きければいいという物ではない。これは京都の仏具屋さんの事例ですが、大きな窓の手前に黒さびの鉄板をおいて光を遮り、横や下から入れることで材質の表情が見えてくるのです。

Photo©平井広行

もちろん明るくすべきところは明るくしますが、すみずみまで明るくする必要はないのです。あえて暗いところを作る。

宮崎駿監督のアニメ映画「となりのトトロ」に出てくる「まっくろくろすけ」をご存じでしょうか? あれこそが日本の空間の本質です。黒い闇があるからこそ、明るい光を感じられる。闇が際立つと、明るさが際立つ。そして物がきれいにみえる。

女性はより美しさが引き立ちます。横から光を受けると、陰影がきれいに付くので美しさが増し、さらにはどこかミステリアスにも映ります。

■3:どんな素材も素直に使う

じつは「ホンモノ」という言い方が私はきらいです。そこにこだわりすぎると、たとえばペンキが使えなくなる。でもそれでは現代の建築はつくれなくなります。漆喰はもちろんいいものですけれど、かといってペンキにだって良さがある。要点は、「素材に素直に」なるということです。ペンキはペンキなりに、素直に使えば良いのです。

ふつう建築の素材は、「外で使うもの」「内で使う物」などに分けて考えられます。たとえば「緑(植栽)」や「水」は外で使うもの、「石」「木」「紙」などは中でつかうもの、と。

でも、なぜ分けるのでしょうか? 家の中に水があってもいいですよね。

中はこれ、外はこれと分けて考えないで、内と外、そして“しつらえ“の花などを全部一体に考えることが大切だと私は思います。

たとえば、地上30階の高層住宅では、無垢の木材は法規上使えないことになっています。でも無垢材を使えないとしても、地上30階で快適で美しい生活空間をつくる道はあります。そのためには、「ペンキもすてきだよね」と思えることです。

ペンキというものは、塗り替えられるし、コストも安い。欧米ではふつうに塗り替えを楽しんでいる人が沢山います。たとえばレンガを積んで白いペンキ塗るだけで、とても格好いい表情が出せます。ペンキはケミカルで安っぽいから使いたくないと考えるのではなく、それがいいと思えることです。

プラスチックだって相当おもしろい素材です。プラスチックでなければできない表現がある。それを「ガラスじゃなきゃね」という教条主義に陥ると、目が狭くなってきます。素材を素直に使おうというのが、私の考えです。

かつてはフィリピンの痰壺だって、日本にきて茶の名品になりました。文脈が変われば、名品になる。プラスチックもペンキも同じで、らしく使えばホンモノの価値をまとうのです。

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小さな窓や花を配して内と外をつなぎ、光を際立たせる暗部をつくり、そしてどんな素材でも素直に使う。これが、私が考える「ニュージャパンスタンダード」の基本的な3つのキーコンセプトです。

私はいま、これらキーコンセプトをまとめて、どんなマンションにでも提供できる形にした住空間のパッケージプランを構築しているところです。ハイアット/ホテルのコーディネートを世界中で手がけている木村ふみさんと組んで、住宅設計やリフォームの際に、インテリアや家具のセレクションから絵を掛ける場所までトータルに相談に乗れる体制をつくろうとしています。(>>詳しくはこちら

目指すのは、都市にゆたかに住むということ。それは建築の提案というよりも、すべてを合わせた住空間の提案です。

都会のマンションを美しく快適に仕立て直して住む。その豊かさと楽しさを、一人でも多くの方に知っていただきたいと思っています。

談/岸和郎
建築家、京都造形芸術大学大学院教授。1950年、横浜生まれ。1993年から2010年、京都工芸繊維大学にて教鞭をとる。その間、カリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学で客員教授を歴任。2010年~2016年、京都大学にて教鞭をとる。2016年より現職。1993年、日本建築家協会新人賞、1996年、日本建築学会賞作品賞など受賞多数。

取材・構成/編集部

取材協力:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン
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岸和郎氏監修「NEW JAPAN STANDARD」コンセプトページ
https://concept.asj-net.com/new-japan-standard