ホールのようなリビングで極上の音に包まれる家【余生を楽しむ住まい01】

撮影:長谷川潤

自分の趣味を思う存分堪能できる家で暮らしたいという思いは、誰もが抱いているはず。なかでも特にサライ世代を魅了するのは、周囲に気兼ねすることなく音楽を楽しめるリスニングスペースを持つことではないだろうか。

そこで今回は、Nさん一家が住む「浜北の家」をご紹介したい。最大のポイントは、極上の音が包み込んでくれる、ホールのようにゆったりとしたリビングだ。

撮影:杉野圭

撮影:長谷川潤

ご主人と奥様はトランペット奏者として、それぞれ吹奏楽団に所属。長男もかつては打楽器を演奏していた。そして次男は現在もトランペットに親しんでおり、ご両親と一緒に演奏会に参加することもしばしば。つまりNさんのご家族は、絵に描いたような「音楽一家」である。

ところが、数年前までお母様と5人で暮らしていた住まいは、いろいろと問題があったのだという。築30年と古く、使っていない部屋も多数。冬は寒く、床材が浮いていたり、壁が剥がれていたりと、かなり傷んでいたというのだ。

「そこで建て替えを考えました。県内にある住宅展示場を回ったのですが、住宅メーカーが提案するプランには、どうにも面白味がなくて……」と述懐するNさんは、“建築家との家づくり”を選択したのである。

設計を担当することになった井上昌彦さんL.V.M.計画一級建築士事務所)は、Nさん宅の構想について、こう振り返る。

「建主のNさんご夫妻は、趣味で本格的なクラシック演奏をされます。ご主人の第一のご要望は“満足できるオーディオルームをつくること”でした。Nさんご夫婦との打ち合わせは終始楽しい雰囲気で進展し、時にはいろいろ脱線しました」

そしてご主人も、笑いの絶えない打ち合わせを重ねていくごとに、自身の理想がひとつひとつ形になっていくことを実感した。

「とてもワクワクしました。やっぱりプロの発想はすごい。家づくりって、おもしろいなあって思いました」

「仕事から帰ってきたら、音楽に癒されたい」という思いが強かったご主人がもっともこだわったのは、一階のリビングルームだ。そこで空間のサイズ、壁や床の材質を緻密に計算された吹き抜けの大空間がつくられた。

撮影:長谷川潤

「オーディオルームはご指定の音響方式を採用し、建物の西側に配置すること、そして一日の疲れがとれるようにゆったりとくつろげる空間にしてほしいとのことでした。一般的にオーディオルームは窓のない閉鎖的な空間になりがちですが、この部屋はリビングでもあり、2階への階段もある日常的な空間であるため、心地よい光と風が十分に入る開口部を南北に設けました」(井上さん)

クリアな音が楽しめるように、壁には吸音効果のあるサランネットを採用。床はコンクリートに床材を直張りし、主に低音の共鳴を抑えたという。さらに壁には30センチ以上の厚みを持たせ、余計な共鳴を抑える効果を高めている。当然だが、近隣への音漏れも心配ない。

「日常的でありながら小ホールのような緊張感も併せ持つ空間になったと思います。」(井上さん)

撮影:長谷川潤

一方、奥様のこだわりもしっかりと反映されている。それは、2階の南側に面したランドリールーム。洗濯物を干すことができる広めのテラスを備えながらも、天気の悪い日には室内干しもできるようになっているため、使い勝手がとてもよいのだ。

また小上がりが設置されているため、愛猫との昼寝も快適。大容量のウォークインクロゼットとも隣接しているので、乾いた洗濯物の片づけも楽だ。

撮影:長谷川潤

玄関を入ってすぐのダイニングキッチンも、家族にとって大切な空間。以前の家のダイニングは居心地が悪く、各人がそれぞれの個室で食事をとることが多かったそうだが、この家は違う。窓から中庭を眺められる場所を家の中心にしたため、ここで食事をする機会が増えたというのだ。

撮影:長谷川潤

玄関を入って右手の和室と寝室は、お母様のためのスペース。朝の支度やちょっとした洗いものにも使える洗面台やお手洗いもあるので、使い心地がいいという。

撮影:長谷川潤

「今回の設計で目指したのは、作為的なデザインを最小限にとどめ、音楽の流れる日常の心地良さを感じられる家にすることでした」と井上さんは語るが、そんな思いは結果的に、Nさんご一家を満足させたようだ。

「新しい家になってから、帰宅が早くなりました。家のなかも暖かくなったし、2匹の猫たちも元気になったような気がします」

奥様が満足そうに語る家のリビングには、今日も透き通るような弦楽器の音色が響いていることだろう。

【浜北の家】
建築家:井上昌彦
http://www.asj-net.com/architects/data.php?archiID=26035&archiIDsub=1

施工:ASJ浜松スタジオ
http://event.asj-net.com/public/studio/data/24

【この建築事例に関するお問い合わせ】
アーキテクツ・スタジオ・ジャパン
電話:03-6848-9500
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文/印南敦史
取材協力/アーキテクツ・スタジオ・ジャパン、吉田桂