サライ.jp

取材・文/坂口鈴香

umiiさんによる写真ACからの写真

コロナ禍で、老人ホームや施設に入居している親に会うことがかなわない家族は少なくない。

親に会えない! 子世代はどうする? コロナ時代 孤独の処方箋【1】」で登場してくれた井波千明さん(仮名・55)は、自宅に近いサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)に入居している義父母と、最近ようやくテレビ電話による面会が実現した。

「コロナがきっかけで、高齢者も不思議な体験ができますよね。コロナでもないことには、オンライン面会なんて絶対ありえませんでした」

それまで約半年間面会できず、前出の記事では義父から「あんた、誰ね?」と言われてしまった。

「コロナのせいで、私は義父から忘れられてしまいました」と明るく笑う井波さんだが、ここに至るまでには少なからぬ葛藤を抱えていた。

自分が義父母の生活環境を変えてしまった

井波さんの夫(56)は三男だ。長兄、次兄とも、遠くに住んでいる。近県に住んでいた井波さん自身の親は、高齢になり足腰が弱くなったため井波さんと同じマンションに呼び寄せていたが、10年ほど前に亡くなっている。だから井波さん夫婦が、介護が必要になった義父母のキーパーソンとなっているのは順当といってもよいだろう。

とはいっても、義父母もサ高住に入居するまで、井波さん家族の近くに住んでいたわけではなかった。同じ県内ではあったが、車で2時間くらいかかるところだったため、会いに行くのは盆と正月くらい。2人の義兄たちとそう変わらない頻度だった。

「それでも義父母がまだ元気だったころから、2人の老後の面倒をみるのは私しかいないと思っていました。長兄はバツイチ独身、次兄は転勤族で、2人とも遠くに住んでいますし」

井波さん家の近くのサ高住に引っ越すことを、最終的に決断したのは義父母だ。義兄たちも賛成してくれた。

だが、実質的に義父母にそれまでの生活環境を変えさせたのは自分だと思っている。

「サ高住で安心して暮らせるのは義父母にとっていいことだと思っていました。でも、こちらに移ってすっかり覇気がなくなってしまいました。そんな2人を見るたびに罪悪感にさいなまれるんです。せめて会いに行って話し相手にならなくてはと思っていましたが、きちんと時間を取って会いに行こうとはしていませんでした。もっと会いに行かないといけないと、さらに罪悪感が募っていたところに、このコロナ。面会が制限されたおかげで、私はこの罪悪感から解放されたんです」

三男の嫁である井波さんが、そこまでの罪悪感を持っているとは……。井波さんの律儀さが伝わってくるではないか。

二人暮らしの義父母が認知症に

少し時間を戻そう。

義父が認知症と診断されたのは5年前のことだ。

「運転免許の更新時に認知症の疑いがあると告げられ、免許証を返納することにしました。それまで、私たちも同じ県内にいたとはいえ、年に数回しか顔を出しておらず、むしろ義母がいきなり我が家にやってくることの方が多かったと思います。でも義父の認知症がわかって、車に乗れなくなると、義母も義父にしばられることが多くなって、うちに来ることも少なくなりました。なので、そのころから私たちが義父母のところに毎月行くようになったんです」

それまで義父母は生活援助サービスを受けることもなく、自立した二人暮らしを続けていたのだが、義父の認知症がわかったのと同じころ、義母の物忘れも多くなった。病院に連れていったところ、義母もまた初期の認知症であることがわかった。それでも、訪問介護サービスを利用して二人暮らしを維持していたという。

ところが、それからしばらくすると、義母の様子が明らかにおかしくなった。

【2】に続きます

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

関連記事

ランキング

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

サライ最新号
2020年
12月号

サライ最新号

大人の逸品Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア