蜂須賀小六正勝(左/演・高橋努)に協力を求める藤吉郎(右/演・池松壮亮)。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第7回では、墨俣築城の段が描かれました。

編集者A(以下A):墨俣築城のエピソードは、藤吉郎・小一郎兄弟のサクセスストーリーを描く際には、「水戸黄門」の印籠のようになくてはならないエピソードです。1981年の『おんな太閤記』、1996年の『秀吉』でも大きく取り上げられています。まず時系列を整理したいのですが、桶狭間の戦いから5年経過して、雑兵だった藤吉郎秀吉(演・池松壮亮)が侍大将に出世を果たしているということで、今回は織田家の評定の席に列しています。驚くべきスピード出世です。

I:小瀬甫庵の『太閤記』にも記されている大沢次郎左衛門(演・松尾諭)の案件での功績が認められたということなんでしょうね。さて、物語は、美濃国内の墨俣に城を築いて、斎藤龍興(演・濱田龍臣)の居城稲葉山攻略の拠点にしたいということで、まずは柴田勝家(演・山口馬木也)に任せることになりましたが、失敗して戻ってきました。

A:左腕に戦傷を負っていました。「鬼柴田」と称された豪将ですらケガをするというスリリングな戦場だったことを示唆してくれますが、勝家が傷を負うという設定は珍しいですね。そして、興味深かったのは、柴田勝家の後釜を志願した秀吉が、当の柴田勝家のもとに教えを請いにいく場面ですが、大河ドラマファンにとって、衝撃的なやり取りが交わされました。勝家が「敵は斎藤ではない。ときじゃ」と秀吉に語った場面です。

I:イントネーションは「土岐」のように聞こえました。小一郎(演・仲野太賀)も「美濃の守護の土岐のことか」といっていたくらいです。そのやり取りの何が気になったのですか?

A:30年前の『秀吉』では織田家の評定の席で、竹中直人さん演じる秀吉が「柴田様、佐久間様がしくじられたのは、ひとえに時がかかりすぎたからでございます」という台詞を発せられました。まさかとは思いますが、「時がかかりすぎた」への「30年後のアンサー」が「敵は斎藤ではない。ときじゃ」だったのではないかと思ったのですよ。

I:なんと! 30年かけた伏線回収ってことですか……。面白いですけど、そんな伏線あるわけないじゃないですか! 偶然ではないでしょうか(笑)。

傷だらけになって墨俣から帰ってきた柴田勝家(演・山口馬木也)。(C)NHK

阿波徳島藩蜂須賀家の祖

高橋努さん演じる蜂須賀小六。(C)NHK

I:ということで、秀吉と小一郎は、墨俣周辺の地理に明るい土豪の蜂須賀小六正勝(演・高橋努)らを説得するため彼らの拠点に乗り込みます。
蜂須賀小六の「蜂須賀家」といえば、昨年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の終盤に東洲斎写楽絡みで、斎藤十郎兵衛(演・生田斗真)が阿波徳島藩蜂須賀家の家臣ということで登場しましたが、あの蜂須賀家の祖ですね。歴史っていろいろなところでつながってきますね。

A:蜂須賀小六は、1981年の『おんな太閤記』では前田吟さんが演じました。1996年の『秀吉』では、プロレスラーの大仁田厚さんが、2006年の『功名が辻』では同じくプロレスラーの高山善廣さんが演じるなど、「格闘家枠」かのような配役で知られます。

I:『豊臣兄弟!』では、『天地人』(2009)で加藤清正を演じるなど、大河ドラマ出演4作目の高橋努さんが蜂須賀小六を演じています。格闘家といわれてもおかしくない佇まいと風貌、にも関わらず演技は細やかで、さすが、舞台で培われた演技力は違うわ、って視聴者を魅了してくれる存在感……。なんか凄くないですか?

A:確かに、粗雑だけではない、人間の機微をも細やかに表現するアップデートした蜂須賀小六の登場となりました。ところで、蜂須賀小六のことを「川並衆」と表現していましたね。これは『武功夜話』でのみ使われる「用語」になります。1996年の『秀吉』では、大筒を手に持ち、『武功夜話』をベースにしている感じがしましたが、『絵本太閤記』のようにもはや「太閤記」ものに欠かせない存在になっているということでしょうか。

I:『武功夜話』って、昭和34年(1959)の伊勢湾台風の際に旧家の土蔵から出てきたという古文献ですよね。しかも、今週、登場した前野長康(演・渋谷謙人)の日記などが原典になっているともいわれるんですよね。

A:面白いのは、前野家の「偉業」を伝える『武功夜話』由来の展開にしながら、前野長康は、蜂須賀党を「裏切った」扱い。なんとも皮肉な登場となりました。さて、この墨俣築城ですが、小一郎が「汁も砦も同じじゃ、あらかじめ下ごしらえをしておいて」と発案します。原典は小瀬甫庵の『太閤記』に描かれているエピソードでしょうか。ただし、このくだりには「墨俣」の地名は出てこないのですが……。

I:なるほど。

A:1996年の『秀吉』では、蜂須賀小六らを口説くために、小一郎(演・高嶋政伸)が、現代の建築模型のようなものを持ち込んで「プレゼン」する場面が描かれました。この時の秀吉の秀逸な台詞が「夢見るサルじゃ」です。

I:「太閤記もの」はこの墨俣築城あたりのエピソードが、出世街道驀進中! という感じでほんとうに面白いですよね。

A:初めて「太閤記もの大河ドラマ」を視聴する子供たちはもちろんストレートに日本史上最大級のサクセスストーリーを楽しんでほしいですが、オールドファンの方々には45年前の『おんな太閤記』、30年前の『秀吉』との比較も楽しんでほしいですね。その観点で、ちょっと脱線すると、私は『豊臣兄弟!』で秀吉夫婦の間で「おかか!」「おかか!」というやり取りがあったら、とか思ったりします。

I:寧々役の浜辺美波さんが、「おかか!」と呼ばれたら面白いかもしれませんが、それはどうでしょうか。私は不同意です(笑)。

前野長康(演・渋谷謙人)も登場。(C)NHK

秀吉とねねのやり取り

I:1981年の『おんな太閤記』でも1996年の『秀吉』でも、秀吉とねね(またはおね)のやり取りというのは視聴者をほっこりさせてくれる場面が多かった印象があります。

A:『おんな太閤記』では、美濃鵜沼城に人質になっていた秀吉(演・西田敏行)が無事に戻ってきた際に、心配していたねね(演・佐久間良子)が大根で秀吉を何度も叩く場面がありました。1996年の『秀吉』でも、墨俣築城に挑もうとする秀吉とおね(演・沢口靖子)夫婦が手を取り合って「上げ潮じゃー」と連呼する印象的な場面が描かれました。

I:大沢次郎左衛門の件、墨俣築城のエピソードは、秀吉、ねね夫婦の絆を確認する場面になるというのが「太閤記もの大河ドラマ」の定番なんですね。『豊臣兄弟!』では、秀吉とねねの祝言を入れこんできました。秀吉が口をすべらせて「今日の寧々はお市さまと比べて遜色ない美しさ」といってしまったことに寧々が憤るというのは、なんかかわいいな、って思ってしまいました。『おんな太閤記』『秀吉』と異なるのは、こうしたやり取りに小一郎と直(演・白石聖)がからんでくるところです。私は、この4人のやり取り、大好きです。4人の長尺のやり取りで展開するスピンオフドラマを見たいくらい好き。

A:そういう人、多いかもしれないですね。しかし、架空の女性登場人物がここまではまるケースもあまりないですよね。それだけに、直という登場人物がどんな運命を辿っていくことになるのか注目ですね。

I:少なくとも、直が不幸に見舞われる展開だとしたら、それはちょっと許せないかも。いま、それだけ直にはまっています(笑)。さて、その祝言の場面ですが、浅野長勝(演・宮川一朗太)が、秀吉・小一郎の兄弟についていくと、以前とはうって変わった態度でした。「木下兄弟」の出世で手のひら返しの態度で臨む人物が多かったことを表現した場面ですかね。当たり前のこととはいえ、人間社会の性(さが)ですよね。

A:「性」ですか。ここで人としての器が試される場合もありますね。「出世以前」「受賞以前」からの付き合いを大事にする人もいれば、そうでない人もいる。「糟糠の妻」を大事にする人もいればそうでない人もいる。

I:秀吉と小一郎、いったいどうなっていくのでしょうか。

「小一郎長秀」という名乗り

実は「木下小一郎長秀」という名前になっていました、とナレーションで解説された小一郎(演・仲野太賀)。(C)NHK

I:さて、第7回の冒頭では、小一郎の当初の名乗りが「木下小一郎長秀」だったという説明がされました。こういうの珍しいですよね。小一郎の「長秀」の「長」の字は信長の「長」の字の偏諱(へんき)だと説明されました。丹羽長秀(演・池田鉄洋)とおんなじ諱(いみな)だったんですね。

A:不覚にも気がつきませんでした(笑)。歴史上の人物の名乗りの変化というのは、小説やドラマにする際に、悩ましい問題ではあります。秀吉ほどの有名人物なら「木下藤吉郎→木下秀吉→羽柴秀吉→豊臣秀吉」という変遷も受け容れられます。徳川家康の「松平元信→松平元康→徳川家康」も許容範囲でしょうか。「長尾景虎→上杉政虎→上杉輝虎→上杉謙信」は悩ましいですね。『豊臣兄弟!』の「当初は木下小一郎長秀」ということを敢えて広げることは挑戦的です。しかもここを強調することで「では、斎藤義龍・龍興も一色義龍・一色龍興なのでは?」とか「義龍は一色でも、龍興も一色でしたっけ?」など議論の幅が広がるメリットはあるのかもしれません。

I:マニアックな議論ですねぇ。斎藤義龍が美濃国主だった土岐氏より室町幕府体制下では格上の「一色氏」に名乗りを変えたという史実は、少なくともテレビや映画の世界では触れられないですからね。

A:さて、次週、墨俣築城がどのように描かれるのでしょうか。戦国物の大河ドラマで数多く時代考証を担当された小和田哲男先生の著書『歴史ドラマと時代考証』(2010年刊/中経出版)の中で、大河ドラマ『秀吉』での表現をめぐって制作陣とやり取りしたことを明かしています。以下、引用します。

『秀吉』のとき、墨俣一夜城をめぐってもひと悶着あった。「墨俣城」という名前に引きずられ、シナリオでもそれなりに建造物を備えた城として描かれていたため、美術の方が立派な城を作ってしまいそうな気配を感じたので。「名前は墨俣城と言っているが、実際は砦なので、せいぜい柵と物見の台がある程度にしてほしい」と注文をつけた。

I:わ!  次週どんな墨俣城が登場するのでしょう。なんだか楽しみですね。

藤吉郎の「現在地」は侍大将。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

ランキング

サライ最新号
2026年
3月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

市毛良枝『百歳の景色見たいと母は言い』

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店